企業年金(これまでの制度の課題)
現在年金制度は大きく変わろうとしています。特に企業年金の世界においては、資産運用成績の不安定、リストラによる加入者数の減少と年金資産の流出等、多くの課題が発生しています。こうした問題に対応する一つの解決策として、これまでの発想とは異なる年金制度としてわが国に導入された確定拠出年金の活用が考えられます。今回は、これまでの退職給付制度(企業年金・退職一時金)の課題について、最近の動向を交えながらご紹介します。
1.確定給付型の年金制度共通の課題
これまで日本で採用されてきた代表的な企業年金制度である、適格退職年金や厚生年金基金はいずれもはじめに将来支払う水準(給付水準)を決め、それに必要な掛金額を算出し、その額を実際に支払っていく制度です。給付額の水準が決められているという意味から、「確定給付型」の年金制度と呼ばれています。
確定給付型の年金制度は、不確実な将来に対し、一定の仮定(前提)をおいて掛金計算を行います。ですから、すべてが仮定通りに行けば、制度は変更の必要なく運営されていきますが、仮定通りに進まなければ、どこかで見直しをして軌道修正をしなければなりません。これが専門的な用語では財政再計算と呼ばれるものにあたります。
では、どのような仮定をおいているのでしょうか。代表的なものとして(1)予定利率、(2)予定脱退率、(3)予定昇給率などがあります。
このうち、特に近年問題となっているのが(1)の予定利率です。年金の掛金を決めるために、将来の給付までの間、掛けたお金がどれくらいの利率で運用できるかを予め予測し、設定することとなります。厚生年金基金の予定利率が97年まで5.5%で設定されてきたことから、適格退職年金でも予定利率を5.5%として制度設計を行っているところが多くなっています。しかし、株式市場の低迷や超低金利の長期化により、ここ数年の企業年金の運用利回りはマイナスになっているケースも少なくありません。年金は、長期運用が基本ですので、単年度でマイナスでも中長期の運用利回りが予定を下回らなければ影響は少ないともいえますが、運用利回りのマイナスを埋めるためには、運用だけでは追いつかないケースもあると考えられます。資産が目減りしてしまうと、それを元手に運用することになるため、当初想定した水準に戻すためには、かなり高い利回りが必要となります。
そのため運用低迷による積立不足は最終的に企業の負担となって跳ね返ってくるケースも多いと思われます。運用環境の低迷は「確定給付型」の企業年金を運営する多くの企業に共通する問題で、そこから発生する積立不足は、企業収益を圧迫する要因となりうるということです。
2.適格退職年金
1962年に導入された適格退職年金は、企業が生命保険会社や信託銀行と退職年金規程を実施するための年金契約を結ぶことにより運営されます。国税庁から税制適格の承認を得て導入し、所定の要件を満たせばプランの自由度もあり、さらに企業の掛金が全額損金として認められることから、退職金の外部積立制度として多くの企業に採用されてきました。1994年には制度採用企業で9万2000件台とピークを迎えましたが、それ以降は減少に転じています。
しかし先に説明した運用環境の悪化により、多くの適格退職年金で積立不足が発生しています。
適格退職年金では5年に一度財政再計算が行われ、制度の見直しが行われます。ここで過去の積立不足を埋めるための掛金が算出され、通常掛金(制度設計通りに進んだとした場合の掛金)とあわせて新掛金が提示されます。企業の多くはここまでの間、積立不足の現実をあまり意識せずに来ますが、実際にはこの時に提示される掛金は、従来より大きく増額されることもあります。
また、適格退職年金の場合、退職時の一時金受取もできる制度を設けているところも多くなっています。運用が予定利率を下回り、もともと資産が不足している状態の時に、当初予定以上に退職者が多いと、退職時の一時金の支払いにより、適格退職年金の資産が大きく目減りすることも起こり得ます。
なお、適格退職年金は、2002年4月以後新設することはできなくなりました。また、既存の制度も2012年3月には廃止となりますので、それまでに別の制度に移行する必要があります。

3.厚生年金基金
公的年金への上乗せ給付制度として、1966年に導入されたのが厚生年金基金です。厚生年金基金は、公的年金と私的年金の給付の調整として、代行部分を持つのが特徴です。すなわち、厚生年金基金は、公的年金である厚生年金の一部を国に代わって運営しています。企業は、厚生年金の保険料の一部を免除される代わりに、基金独自の掛金にその免除された掛金を加えた額を基金に対して払い込みます。一方、従業員が年金を受け取る際には、厚生年金が基金の代行部分だけ減額される代わりに、基金からは、基金独自の給付額に代行部分の給付額を加えた額の年金が支給されます。基金で代行しているのは、報酬比例部分です。
厚生年金基金では、現在、この代行部分の取扱が一つの大きなテーマとなっています。代行部分は、厚生年金基金に運用責任があり、現在のような運用環境においては、十分な運用成果をあげることは難しい状況にあります。また、新しい退職給付会計制度が導入されたことで、代行部分を含めて年金債務(企業が退職一時金や企業年金などで将来負担が予想される債務)が正確に評価されることとなり、それが企業の財務諸表で開示することになりました。代行部分は2002年4月から国に返上することが認められたため、企業が厚生年金基金の代行部分を国に返上する動きが活発化しています。
4.退職一時金
企業は将来の退職一時金の支払いのために、資金を準備し財務上負債に計上してきました。その項目を「退職給与引当金」といい、企業の決算時点で全従業員が退職した場合に必要な退職金総額の一定割合を「損金(税務上の費用)」として計上することが可能な制度でした(2001年3月決算より新会計基準が適用され、財務上負債に計上される勘定科目は「退職給付引当金」に変更になりました)。
退職給与引当金制度は廃止されたため、退職一時金制度の企業税制メリットは現在はありません。