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サステナビリティの観点から考えるサプライチェーン・マネジメント
なぜ必要か、そしてどう取り組むか:サステナビリティの観点から見るリスクと対応戦略

サステナビリティの観点から考えるサプライチェーン・マネジメント なぜ必要か、そしてどう取り組むか:サステナビリティの観点から見るリスクと対応戦略

環境問題や人権問題など、様々な社会課題が顕在化し深刻さを増す中、それらの解決に向けた企業のサステナビリティ(持続可能性)への取組に対する社会からの期待や要請はより一層高まっており、企業単体だけでなくサプライチェーン全体での実践が求められている。本稿では、サステナビリティの観点で考えるサプライチェーン・マネジメントを「サステナブル・サプライチェーン・マネジメント(SSCM)」と呼び、SSCMが求められる背景や実務的なプロセスについて解説する。

サステナブル・サプライチェーンマネジメント(SSCM)とは

SSCMに取り組む意義

「サステナブル・サプライチェーン・マネジメント(SSCM)」とは、サプライチェーン全体において環境・社会・ガバナンス(ESG)に関する課題を統合的に管理し、持続可能な事業運営の実現と企業価値の向上を目指す取組である。

そもそも「サステナビリティ/サステナブル」とは、持続する「Sustain」と能力「ability/able」を合わせてできた言葉で、地球上の環境・社会・経済が互いにバランスを保ちながら共存し、発展し続けることを目指す考え方である。裏を返せば、様々なサステナビリティ課題が存在しているが、これらを解決していかなければ、環境・社会・経済いずれも持続可能ではないということである。このため、企業においても経済成長だけでなく、環境や社会の課題解決も含めたサステナビリティ・ESGの取組を推進することが社会的責任として世の中から求められている。さらにその取組を一部の大手企業が単独で行うのではなく、製品(サービス)の原材料採取から製造・加工、輸送、販売、使用、廃棄・リサイクルに至るまでのサプライチェーン全体で取り組むことにより、社会全体のサステナビリティ(持続可能性)を向上させることが、サステナブル・サプライチェーン・マネジメント(SSCM)の意義のひとつである。

また、企業視点で考えると、現代のグローバルなサプライチェーンは、その複雑さと相互の依存性の高さから、どこか一箇所で問題が発生すると、サプライチェーン全体が途絶するリスクを抱えている。例えば、自然災害、人為災害・事故などによる取引先の製造ライン停止は、製品供給の遅延や停止を招き、企業の事業継続に深刻な影響を与える可能性がある。特に、異常気象、パンデミック、サイバー攻撃など、予測困難な不確実性が増大する現代において、SSCMはサプライチェーン全体の柔軟性と適応力を高めるうえでも重要な役割を果たす。このような潜在的なリスクを事前に評価・特定し、予防策や対応策を講じることは、サプライチェーンの強靭性(レジリエンス)を高めること、すなわちリスクが顕在化した際に、それらの影響を最小限に抑え、迅速に復旧し、事業活動を継続できる能力の強化に繋がる。この点もSSCMの重要な意義である。

さらに、ESGへの関心が高まる中で、サプライチェーン上の取引先でESG関連の問題が発生した場合、その影響は当該企業のみに留まらなくなっている。例えば仕入先・委託先・協力会社等(以下まとめて「サプライヤー」という)で、児童労働、強制労働、環境汚染、腐敗行為などが発覚した場合、サプライチェーン全体がその問題に加担しているとみなされる可能性があり、企業の社会的信用や信頼が大きく毀損し、ブランドイメージの悪化、消費者の不買運動、投資家の引き揚げ、さらには法的措置に繋がる可能性も否定できない。つまりSSCMは、サプライヤーのESGリスクを認識し、リスク低減策を講じることで、レピュテーションリスクやコンプライアンスリスクから企業を守る取組でもある。

また、SSCMはリスクを低減するだけでなく、新たな価値を創造する機会にもなり得る。サプライヤーと緊密に連携し、持続可能性という共通の目標に向かって協力することで、技術革新や製品開発、あるいはより効率的な生産プロセスや物流システムの構築に繋がる可能性がある。これらのイノベーションは、製品・サービスの競争力を高めるだけでなく、新たな市場の開拓や、顧客の環境意識や倫理的な消費ニーズへの対応にも繋がる。結果として、新たなビジネスチャンスの創出や売上増加、企業の価値向上に貢献すると考えられる。

企業が対応を迫られる背景

前述のとおり、現代社会では、企業がSSCMを推進し、サプライチェーン全体でリスク低減・機会創出を図ることが、企業自身の持続可能性確保につながると考えられている。それ故に、SSCMに関する様々な規制やステークホルダーからの要請が増加しており、その対応が不可欠な環境となっている。

法規制による義務付け:CSDDD(企業持続可能性デュー・ディリジェンス指令)

EUでは、2024年5月にCSDDD(Corporate Sustainability Due Diligence Directive、企業持続可能性デュー・ディリジェンス指令)が採択※1され、企業に対して、自社だけでなくサプライチェーン全体における人権および環境への影響を特定、評価、防止、軽減するためのデュー・ディリジェンスの実施を義務付ける動きが加速している。デュー・ディリジェンスとは、「企業が、実際の及び潜在的な自社の負の影響を特定、防止、軽減するとともにどのように対処したかについて説明するプロセス」※2である。本規制の対象となる企業はEU域内に拠点をもつ大手企業だけでなく、EU市場における売上高が一定額以上の域外企業も含まれる※3。このため、EU市場のビジネスに関わる日本の大手企業がCSDDDの対象となることが見込まれるが、直接的な対象とならない企業であっても、対象企業と取引があることによって間接的に影響を受ける可能性はある。本規制は、今後規模が大きい企業から順次適用される見込みだが、企業がSSCMの取組を怠った場合に、法的責任を問われる可能性を示唆しており、無視できない要因となっている。日本貿易振興機構(ジェトロ)が欧州に進出する日系企業を対象に実施した「海外進出日系企業実態調査|欧州編(2024年12月)」※4によると、人権・環境DD関連法規制のうち、影響が最も大きいのは「企業持続可能性デュー・ディリジェンス指令(CSDDD)」で、2023年度から2024年度にかけて10.3ポイント増加し、38.8%の企業がすでに影響を受けている、または今後影響を受ける可能性があると回答しており、企業の関心の高まりがうかがえる。CSDDDに限らず、サステナビリティの領域においてEUの規制は地域的なものではなく、グローバルトレンドの先行指標ともなり得るため、今後もEUの動向は注目を集めると考えられる。※5

図1 人権・環境デュー・ディリジェンス(DD)関連法規制のうち、すでに影響を受けている、または今後影響を受ける可能性がある法規制

図1 人権・環境デュー・ディリジェンス(DD)関連法規制のうち、すでに影響を受けている、または今後影響を受ける可能性がある法規制※6
※6出典:独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ)「2024年度海外進出日系企業実態調査|欧州編」を基に
SOMPOリスクマネジメント作成(2025.11.04)
https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Reports/01/bf50342a7b795067/20240035rev1.pdf【外部リンク】2024年度海外進出日系企業実態調査|欧州編

ステークホルダー要請

前述の法制化の動きとも関連するが、ステークホルダーからの要請も強まっている。

まず、多くの企業にとってイメージしやすい、あるいは経験があると考えられるのが、取引先からの要請である。グローバル企業や一部のサステナビリティ先進企業において、サプライチェーンにおけるリスク低減と機会創出の観点、および自社のESG目標達成のため、サプライヤーに対してもESGの取組を求めるようになっている。日本経済団体連合会の会員企業を対象とした「第3回企業行動憲章に関するアンケート結果」※7では、国連「ビジネスと人権に関する指導原則」に基づく取組を進めている(一部実施や実施予定を含む)企業のうち60%が、各取引主体(サプライヤー)への追跡調査により人権に関する取組の働きかけを行っている実態が示されている。その手法としては、「質問票等による自己評価」(SAQ:Self-Assessment Questionnaire)いわゆるサプライヤーアンケートや「行動規範の遵守要請」が多く用いられている。取引先からのこのような要請は、特にサプライチェーン上流の企業にとってESGの取組を始める強力な動機付けとなっている。

図2 国連「ビジネスと人権に関する指導原則」に基づく取組を進めている(一部実施や実施予定を含む)企業の取引先(サプライヤー)への働きかけ <追跡調査の実施状況および実施方法>

図2 国連「ビジネスと人権に関する指導原則」に基づく取組を進めている(一部実施や実施予定を含む)企業の取引先(サプライヤー)への働きかけ
<追跡調査の実施状況および実施方法>※8

※8出典:一般社団法人日本経済団体連合会「第3回企業行動憲章に関するアンケート結果」を基に
SOMPOリスクマネジメント作成(2025.11.04)
https://www.keidanren.or.jp/policy/2024/005_kekka.pdf【外部リンク】

また、上場企業においては投資家からの要請も強まっている。投資家は、企業の長期的な持続可能性と財務健全性を評価するうえで、ESG要素を重視する傾向を強めており、特に機関投資家の多くは、投資判断にESG要素を組み込み、企業に対してサプライチェーンにおけるESGリスクの開示や改善を求めている。MIT交通・物流センターおよびサプライチェーン管理専門家協議会が行った、様々な国・業界の企業におけるサプライチェーン担当者を対象とした調査によると、2020年から2023年にかけてサプライチェーンの持続可能性向上を求める投資家からの圧力レベルは強まっており、企業が認識している圧力レベル(5段階評価)の平均値は、4年間で次第に上昇している。投資家からの評価は、企業の資金調達や企業価値に直接影響を与えるため、企業がSSCMへの取組を強化するひとつのきっかけとなっている。

図3 サプライチェーンの持続可能性向上を求める圧力レベルに対する評価(各ステークホルダーからの圧力レベルについて「1:優先事項ではない ~ 5:最優先事項」の5段階評価された回答の平均値)

図3 サプライチェーンの持続可能性向上を求める圧力レベルに対する評価(各ステークホルダーからの圧力レベルについて「1:優先事項ではない ~ 5:最優先事項」の5段階評価された回答の平均値)※9
※9出典:Velázquez Martínez, J.C., and Arnold, V. “State of Supply Chain Sustainability 2024” (Cambridge, Mass. and Lombard, Ill.: MIT Center for Transportation & Logistics and Council of Supply Chain Management Professionals, September 2024)を基にSOMPOリスクマネジメント作成(2025.11.04)
https://sustainable.mit.edu/wp-content/uploads/2025/02/2024_State-Sustainable-Supply-Chains-MIT-CSCMP_Feb2025.pdf【外部リンク】

さらに、上場企業においては、ESG外部評価機関からの評価もSSCM対応を迫られる一因となっている。これらの機関は、企業のESGパフォーマンスを客観的に評価し、投資家をはじめとしたステークホルダーに情報を提供するとともに、高評価の企業を組み入れた株価指数を構成している。この指数に組み入れられることで、ESGを重視した投資判断をしている投資家から運用資金の流入が期待できることから、企業にとっては資金調達における優位性を得ることに繋がる。実際に、日本最大の機関投資家である年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は「『長期的な投資収益の拡大には、投資先及び市場全体の持続的成長が必要』との投資原則の考え方に沿って、その運用プロセス全体を通じ、ESGを考慮した投資を推進」※10しており、年金積立金の一部をESG外部評価機関の株価指数で運用している。ESG外部評価におけるSSCM関連の評価項目は多岐にわたり、例えば、ESGに配慮した調達姿勢を示す調達方針の策定やサプライヤーへの周知、またサプライチェーン全体におけるESGリスクを特定し、抑止・軽減するための継続的なプロセスの確立、追跡調査や是正・教育等の実施状況などが評価対象となる。高いESG評価を得ることは、企業のブランドイメージ向上や競争力強化にも繋がるため、これらの評価基準を満たすことを一つの動機としてSSCMの強化を図っているケースも少なくない。

本章では、SSCMに取り組む意義について説明し、企業が対応を迫られている背景として関連する法規制やステークホルダー要請についての動向にも触れた。次章では、【リスク低減】と【機会創出】の視点から、SSCMにおけるESGの具体的な取組について解説する。

<本章のポイント>

  • SSCMとは、サプライチェーン全体において環境・社会・ガバナンス(ESG)に関する課題を統合的に管理し、持続可能な事業運営の実現と企業価値の向上を目指す取組である。
  • SSCMの主な意義として以下の2点があげられる。
    ①リスク低減:サプライチェーンの途絶リスクやレピュテーションリスク、コンプライアンスリスク等の低減
    ②機会創出:サプライチェーン間の連携強化による技術革新や製品・サービス開発、効率的な生産・物流システムの構築等、ビジネスチャンスの創出
  • 企業の持続可能性確保のため、SSCMに関する様々な規制やステークホルダーからの要請が増加していることも、企業が対応を迫られる一因となっている。

サプライチェーンにおけるESGの取組とは

SSCMを実践するうえで、ESG(環境・社会・ガバナンス)の観点をそれぞれ具体的にとらえ、取組を進めることが重要である。本章では、ESGの各側面における代表的な施策を、【リスク低減】と【機会創出】という2つの視点から整理し、企業が実践すべき方向性を示す。

環境的側面

環境分野での取組は、気候変動への対応にとどまらず、自然資本(生物多様性・水資源など)の保全、資源循環、廃棄物や有害物質の管理といった広範な課題を含む。サプライチェーン全体でこれらを統合的に把握し、適切にマネジメントしていくことが、企業の持続可能な成長と競争力の確保につながる。

観点 主な取組 効果・影響の例
リスク低減 温室効果ガス(GHG)排出量削減、気候変動への適応、自然資本(生物多様性・水資源など)の保全、廃棄物管理、化学物質管理 法令順守によるコンプライアンスリスクの回避、取引停止・投資撤退リスクの低減、災害による供給停止リスクの低減、評判(レピュテーション)リスクの低減
機会創出 脱炭素化の推進・再エネ導入、環境配慮製品の開発、自然資本開示、環境イノベーション 新規市場参入、競争力強化、資金調達や調達先としての優位性向上

表1 サプライチェーンにおける環境的側面の取組とその効果※11
※11出典:SOMPOリスクマネジメント作成

【リスク低減】

温室効果ガス(GHG)排出量削減:近年、サプライチェーン全体のGHG排出量(Scope1+Scope2+Scope3)の把握と削減を求める傾向が高まっており、取組が不可欠となってきている。GHG排出量が多い企業や、それを把握・管理していない企業は、サプライチェーンからの除外や投資引き揚げといった形で評価を落とすリスクが高まっており、サプライヤーと連携した排出量の可視化と削減が求められる。

気候変動への適応:水害等の災害によるサプライチェーンの寸断や異常気象による農作物価格の高騰など、直接的な影響に備える必要がある。サプライヤーとの協働によるリスク評価、冗長性を考慮した調達・在庫管理、災害リスク対策などを行うことで、供給停止リスクを低減することが求められる。

自然資本:自然資本は生物多様性を含む森林や水資源などの自然環境のことで、食料や水、植物の光合成や受粉、気候調整などの生態系サービスを利用して企業活動は成り立っている。これらの管理が不十分であると、生物多様性の損失や天然資源の不足による原材料の高騰や入手困難、水不足による操業停止などのリスクがサプライチェーン全体に波及する可能性がある。こうしたリスクを回避するためには、事業活動が自然資本に与える影響を把握し、持続可能な資源利用や生物多様性保全に配慮した調達・生産体制を構築することが求められる。

廃棄物管理:廃棄物の削減、適正処理、再資源化の推進とともに、サプライチェーン全体での責任ある廃棄物管理が求められている。不法投棄や違法処理は環境汚染や法的制裁のみならず、企業の社会的信用を著しく損なうリスクを伴う。これらの問題は多くの場合、下流の処理業者や委託先で発生するため、調達先での廃棄物管理の実態把握や契約管理が重要である。

化学物質管理:化学物質を取り扱う企業において、使用される物質の安全性確保や規制遵守は必須の取組である。加えて、EUのREACH(化学物質の登録、評価、認可および制限)規則やRoHS(特定有害物質使用制限)指令などの国際的な基準違反は、製品回収や罰則、取引停止のリスクを伴うため、サプライチェーン全体での管理体制構築が必要となる。

【機会創出】

脱炭素化の推進・再エネ導入:GHG削減に向けた取組や再生可能エネルギーの導入は、GHG削減を必要とする企業や脱炭素化社会への移行リスクを考慮する投資家からの選好を高め、取引や資金調達の面で優位性をもたらす。SBTi※12やCDP※13といった国際的枠組みに対応した目標設定・情報開示は、グローバル市場での信用力向上にも直結する。再エネ由来電力の利用拡大は、自社におけるScope2排出量の削減に加え、顧客企業のScope 3排出量の削減への貢献として評価される。

環境配慮製品の開発:製品設計段階から環境負荷を低減する取組(エコデザイン、ライフサイクルアセスメントなど)は、消費者の環境意識の高まりとともに、製品差別化の要因となっている。低炭素素材の導入、省エネルギー型製品などを通じて、新たな顧客層へのアプローチや企業競争力の強化にもつながる。

自然資本開示:TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)への対応をはじめとした、自然資本に関するリスク・機会の把握と情報開示は、今後のサプライチェーン評価において重要性が高まっていく。自然資本への影響を定量的に把握し、回避・軽減策を示すことで、ESG評価の向上や投資家との対話の質の向上につながる。

環境イノベーション:次世代エネルギー技術、再資源化技術など、既存製品の改良の枠を超え、環境課題解決に資する革新的な技術および製品・サービスの開発は、国内外の市場ニーズと合致し、高付加価値化の契機となる。また、サプライヤーや顧客との共創による環境ソリューションの提供は、単なる環境対策を超えて、事業モデルの革新にもつながる。

社会的側面

社会的側面は、人権、労働慣行、安全衛生、地域社会など、人や社会への影響に関わる領域を対象とする。人権侵害や不当な労働環境は、企業の評判や事業継続に重大な影響を及ぼすリスクとなる一方、公正で包摂的な関係構築は信頼や価値創出の基盤となる。近年は、国連「ビジネスと人権に関する指導原則」※14などの国際的枠組みや、欧州を中心とした人権デュー・ディリジェンス関連法制の整備が進み、企業にはサプライチェーン全体での人権尊重と責任ある労働環境づくりが一層求められている。

観点 主な取組 効果・影響の例
リスク低減 人権デュー・ディリジェンス、児童労働・強制労働の排除、差別禁止、労働安全衛生管理 法令遵守、国際的な取引停止リスクの低減、訴訟リスクの低減、評判(レピュテーション)リスクの低減
機会創出 ダイバーシティ推進、地域社会との連携、サプライヤー育成・能力開発 生産性向上、イノベーション促進、ブランド価値向上、エンゲージメント強化

表2 サプライチェーンにおける社会的側面の取組とその効果※15
※15出典:SOMPOリスクマネジメント作成

【リスク低減】

人権デュー・ディリジェンス:国連「ビジネスと人権に関する指導原則」および、日本政府「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」※16では、企業に人権方針の策定、人権デュー・ディリジェンスの実施、救済を可能とするプロセスの設置を求めている。人権デュー・ディリジェンスは、企業活動やサプライチェーン上での人権への負の影響を特定・評価・防止・軽減する一連の行為であり、適切な人権デュー・ディリジェンスを怠ると、国際的な取引の停止や訴訟、レピュテーションの低下を招くおそれがある。

児童労働・強制労働防止:原材料調達段階などの上流サプライチェーンでは、低賃金の国や非正規労働者の多い地域で、児童労働・強制労働が発生しやすい状況にある。企業はSAQ形式でのサプライヤーアンケートや現地監査を通じた確認、是正・救済プログラムの導入、教育支援などの予防的取組を行うことが重要である。

差別禁止:性別・国籍・宗教・年齢・障がいなどによる不当な差別の排除は、企業の人権尊重・公正な労働環境づくりの基本である。サプライヤーを含め、適正な労働条件や評価・昇進の公平性、ハラスメント防止の仕組みを整備することが求められる。

労働安全衛生管理:企業は、サプライチェーン上の労働者の安全・健康を確保する責任を有する。無理な納期や過重な作業負荷は、取引先や下請けの労働者の安全を損なう可能性があるため、サプライチェーン全体の労働環境に注意を払い、適切な管理・教育・安全確保の取組を促すことが求められる。こうした管理が不十分な場合、労働災害や供給停止のみならず、企業の信頼性やレピュテーションにも影響する。

【機会創出】

ダイバーシティ推進性別・人種・障がいの有無など、多様な背景を持つサプライヤーが参画することで、新たな視点や革新的なアイデア、市場変化への迅速な対応力が得られ、企業の競争力や持続可能性の向上が期待できる。また、多様性に配慮した取引は、ブランド価値の向上や投資家からの評価向上にも寄与する。

地域社会との連携:行政・自治体、地元住民、地域企業や教育・研究機関などと協働することで、地域に根ざした資源・技術・人材の活用が進み、地域社会の発展に貢献する。こうした地域との共創は、顧客基盤の拡大や人材確保にもつながり、結果的に企業の持続的成長にも寄与する。このような取組はサプライチェーン全体で連携して推進することで、より大きな成果を実現することができる。

サプライヤー育成・能力開発:持続可能な調達の実現には、サプライヤー自身の能力向上が重要である。研修や技術支援を通じて改善・能力開発を促すことで、サプライチェーン全体のESGパフォーマンスが向上し環境変化やリスクに強い安定した供給体制を築くことができる。同時に、サプライヤーとの信頼関係やエンゲージメント強化、長期的なパートナーシップの構築にもつながる。

ガバナンス的側面

ガバナンス的側面は、法令遵守や情報管理、事業継続体制の確保など、企業の統治力やリスク管理能力に関わる取組を指す。適切なガバナンスが機能していない場合、法令違反や情報漏えい、事業停止などのリスクがサプライチェーン全体に波及する可能性がある。

観点 主な取組 効果・影響の例
リスク低減 コンプライアンス強化、情報セキュリティ管理、BCP管理 法令順守、不正の予防、サイバー攻撃・情報漏洩リスク低減、事業継続性向上
機会創出 情報開示の高度化 投資家評価の向上、ステークホルダーからの信頼向上

表3 サプライチェーンにおけるガバナンス的側面の取組とその効果※17
※17出典:SOMPOリスクマネジメント作成

【リスク低減】

コンプライアンス強化:法令・規制や契約上の義務を遵守することは、違法行為や契約違反、取引停止、不正行為の発生などのリスク低減に直結する。法令遵守状況や契約義務の履行、内部統制や不正防止体制の整備状況などを確認・評価し、必要に応じて改善を求めることで、サプライチェーン全体の法令遵守水準を高め、不正の発生を未然に防ぐことが重要である。

情報セキュリティ管理:顧客情報や技術情報、業務データの漏えい・改ざん・消失は、企業の信用や取引関係に重大な影響を与える。近年では、サプライヤーを狙ったランサムウェア攻撃などのサイバーリスクも増大しており、サプライチェーン全体での情報セキュリティ管理が求められている。

BCP管理:サプライチェーンの複雑化・グローバル化に伴い、自然災害や事故などの緊急事態によってサプライヤーが供給停止や事業中断に陥った場合、自社だけの事業継続計画(BCP)では対応が不十分となる。不測の事態に備え、事業継続性を向上するためには、サプライチェーン全体を見据えたBCPの構築・管理が不可欠である。

【機会創出】

情報開示の高度化:企業はサステナビリティに関する情報を適切かつ透明に開示することが求められている。そのためには、サプライヤーからのデータ提供や協力を得ること、また、リスク・機会の状況をサプライチェーンも含めて考慮して説明することが重要である。このような情報開示の高度化はステークホルダーからの信頼向上や競争優位性につながる。

<本章のポイント>

  • 環境(E):気候変動対応や自然資本の保全、資源循環、廃棄物・有害物質管理などの環境課題を、サプライチェーン全体で統合的に管理することが重要である。
  • 社会(S):人権尊重、適正な労働慣行、安全衛生管理、地域社会との連携を通じ、サプライチェーン全体で公正で包摂的な関係を築くことが求められる。
  • ガバナンス(G):法令遵守、情報管理、事業継続体制などを整備し、サプライチェーン全体に波及するリスクに備えた統治力を確立することが必要である。
  • ※12 SBT(Science Based Targets):パリ協定(世界の気温上昇を産業革命前より2℃を十分に下回る水準(Well Below 2℃:WB2℃)に抑え、また1.5℃に抑えることを目指すもの)が求める水準と整合した、5年~15年先を目標年として企業が設定する、温室効果ガス排出削減目標
  • ※13 2000年に英国で設立された非営利団体。環境情報開示システムを運営し、国際的な情報開示基準やフレームワークと整合した質問書を展開
  • ※14出典:国際連合広報センター「ビジネスと人権に関する指導原則:国際連合「保護、尊重及び救済」枠組実施のために(A/HRC/17/31)」(2025.11.05)
    https://www.unic.or.jp/texts_audiovisual/resolutions_reports/hr_council/ga_regular_session/3404/【外部リンク】
  • ※16出典:ビジネスと人権に関する行動計画の実施に係る関係府省庁施策推進・連絡会議「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」(2025.11.05)
    https://www.meti.go.jp/press/2022/09/20220913003/20220913003-a.pdf【外部リンク】

サステナブル・サプライチェーン・マネジメントの実務上のプロセス

前章までに、企業がSSCMに取り組むことによってサプライチェーン全体におけるリスク低減が図れるという意義や、ESGの各テーマに関連するリスクの低減および機会の創出について詳述してきた。本章では、企業がサステナブル・サプライチェーンを実現するにあたり、実務上どのようなステップを踏んでSSCMを構築するのかを具体的に述べる。

企業が実際に取り組む際の主な5つのプロセス(下図①~⑤について)を概観する。まず、準備段階として①サプライチェーンの整理と指針表明を行う。次に、②現状分析と③評価・特定を行い課題や高リスクなサプライヤーを特定し、④実態確認を通してさらに具体的な課題を認識したうえで、⑤是正と改善措置を講じる。この一連のサイクルを継続的に回すことで、優先順位を付けながら効果的にリスク低減活動を進めることができる。なお、ここで示すプロセスはあくまで一例であり、企業の業種や規模、事業特性等によって内容は異なる点に留意する必要がある。

以降、①~⑤の各プロセスについて、それぞれの具体的な手法と進め方を詳述する。

図4 企業がSSCMに取り組む際の主なプロセス

図4 企業がSSCMに取り組む際の主なプロセス※18
※18出典:SOMPOリスクマネジメント作成

サプライチェーンの整理と指針表明 ・・・①

SSCMを効果的に推進するためには、まず全体像の把握と会社としての姿勢を示すことが重要となる。

自社の製品やサービスに係るサプライチェーン上の主要プレイヤー、すなわち「重要なサプライヤー」を特定することが出発点である。自社の関わる全てのサプライヤーに一度にアプローチすることは困難であることから、特に事業に与える影響が大きい「重要なサプライヤー」を明確化することで、限られたリソースの中でも重点的に管理を進めることができる。

「重要なサプライヤー」を選定するにあたっては、下記の観点でサプライヤーを整理することが考えられる。これらの切り口から概ね10~50社程度の「重要なサプライヤー」を選定し、②現状分析および評価・特定以降の対象とする企業が多く見られる。

  1. 事業における影響度に関する観点
    -製品やサービスの調達金額
    -製品やサービスの調達量
  2. 調達物の重要性に関する観点
    -製品・部材、サービス・役務等の直接・間接的関与度合い(最終製品における部材の重要性等)
    -部材や役務の代替可能性
  3. その他のリスクに関する観点
    -固有のESGリスク:環境や社会、また生物多様性に与える影響が大きい原材料を取り扱う等
    -地理的リスク:取引先の所在国における紛争リスク等
    -レピュテーションリスク:取引先の過去の不祥事情報等

また、方針として「サステナブル調達方針」や「サプライヤー行動規範」等を策定し、社内外に発信することが重要である。これらの方針は、企業が重視する人権尊重・環境配慮・倫理的行動といった基本的な姿勢を明確化し、社内外のステークホルダーと共有するための基盤となる。方針を明示し、従業員やサプライヤーを含む関係者との認識を一致させることで、SSCMの円滑な推進が可能となる。

方針の策定にあたっては、国際的な枠組みやガイドラインを参照する企業が多い。代表的なものとして、ISO26000(社会的責任に関する手引)、ISO20400(持続可能な調達に関する手引)、国連グローバル・コンパクトの10原則等が挙げられる。これらの国際基準を踏まえることで、方針の信頼性と国際的な水準との整合性を高めることができる。

さらに、策定した方針を実効性のあるものとするためには、実務への落とし込みが不可欠である。具体的には、サステナブル調達方針に関する社内関係部署への研修、サプライヤー行動規範への同意書の取得、サプライヤー向け説明会の開催、契約書への明記等の取組を通じて、方針を日常のサプライヤーとの取引の中で機能させる工夫が求められる。このような取組により、サステナブル調達の理念が単なる宣言にとどまらず、企業活動全体に浸透していくことが期待される。

現状分析と評価・特定 ・・・②③

「重要サプライヤー」を整理し、会社としてSSCMへの姿勢・指針を示した後は、サプライチェーン全体の現状を把握し、リスクと課題を特定する段階に進む。

多くの企業では、サプライヤーアンケートの実施を通じて、人権・労働安全衛生・環境・倫理等の分野に関する取組状況を調査している。回答結果を分析することで、サプライヤーのサステナビリティに関する取組度合いやリスク傾向を把握することができる。

ここで重要なのは、サプライヤーアンケートの目的の設定である。弊社の企業への支援実績から、下記2つの目的に大別することができる。B)の「高リスクなサプライヤー」とは、後述のとおり、サプライヤーアンケートの回答結果を踏まえて決定され、ヒアリングや監査の実施対象となるサプライヤーを指す。

A) 「重要なサプライヤー」のサステナビリティに関する取組の全体傾向を把握する
B) 「高リスクなサプライヤー」がどこかを特定したのち、ヒアリングや監査を実施する

上記の目的に照らし合わせたうえで、アンケートの粒度についてどの程度細かいものにするのかを検討することを推奨する。

企業が入手できる一般に公開されているものとして、グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン(GCNJ)のCSR調達セルフ・アセスメント・ツール・セット※19や、電子情報技術産業協会(JEITA)の責任ある企業行動ガイドライン 自己評価シート※20等が挙げられる。前者は、比較的広く網羅的にESGの取組状況について尋ねる設計となっており、対象企業がどの程度サステナビリティの取組を推進しているかを図ることができるため、A)全体傾向を把握する目的に対して有用であると考える。後者は、比較的粒度が細かく、法令順守の観点でのチェック項目が多く設定されており、B)ヒアリングや監査を実施する対象を決定する目的に対して有用であると考える。

いずれの目的・粒度においても、全体傾向を把握することはもちろんのこと、重要なのは「高リスクなサプライヤー」および課題を特定し、続く実態確認、是正・改善のプロセスにつなげていくことである。

A)の目的のもと、網羅的にESGの取組状況について確認するサプライヤーアンケートを実施した場合には、全体傾向を踏まえたうえで対応が急がれる「高リスク領域」や「重要テーマ」(例えば、繊維産業の人権分野であれば児童労働・強制労働等)を認識できる場合が多い。B)の目的のもと、これらの「高リスク領域」や「重要テーマ」に関する深掘りのための追加調査を実施し「高リスクなサプライヤー」を特定することで、より効率的にリスク低減を図ることが可能である。

実態確認 ・・・④

高リスクなサプライヤーを特定したのち、各企業にて策定した調達方針やサプライヤーガイドラインの順守状況を確認していき、具体的な施策を検討・実行する段階へと入る。

実態確認の方法として、高リスクなサプライヤーへのヒアリングの実施や、高リスク領域や重要テーマに関するサプライヤー監査(オンサイト/リモート)の実施が挙げられる。

ヒアリングとサプライヤー監査のいずれにおいても、対象となるサプライヤーに対して、事前にヒアリング・監査実施の目的と共にリスク評価結果や重点テーマの背景を共有し、相互理解を図ることが重要である。単なる情報収集やサプライヤーを追及するような場ではなく、サプライヤーのリスク管理体制や改善に向けた意識を把握し、共に課題解決の方向性を検討する場として位置付けることが求められる。

ヒアリングで確認すべき主な観点として、下記3点が挙げられる。

  • 高リスク領域や重要テーマに関する社内体制と実施状況
  • 実施できていない事項がある場合、背景や事情
  • 今後の取組計画や段階的な実施の見通し

サプライヤー監査においては、各企業で策定した調達方針やサプライヤーガイドラインを基に監査基準を明確に設定したうえで、前述の3つの観点に基づくヒアリングに加え、規程等の文書確認、実地確認(工場や現場がある場合には立ち入り確認)や従業員へのヒアリング等を実施することもある。

また、各企業で策定した調達方針やサプライヤーガイドラインをベースにしつつも、外部の監査基準等も活用し、より専門的な監査を継続的に行うことも有効な手段となる。代表的なものとして、SMETA(Sedex Members Ethical Trade Audit)、SA8000、RBA(Responsible Business Alliance)等が挙げられる。加えて、監査そのものを目的とした仕組みではないものの、サプライヤー評価を行う際の基準としてEcoVadis※21を参照することで、監査項目をより詳細に設定することができ有用である。

このような継続的なモニタリングにより、企業はリスクを早期に把握し、サステナブルなサプライチェーンを確保することができる。

是正と改善 ・・・⑤

実態確認やモニタリングの結果、潜在的なリスクや対応が不十分な事項が明らかになった場合には、その原因を分析したうえで、是正措置の検討・実行を行うことが重要である。

サプライヤーへのアプローチ方法の例として、次の3段階が考えられる。

まず第1段階では、リスクが高い点や是正が必要な項目をサプライヤーにフィードバックし、自社がどのような理由でリスクが高いと認識しているかを説明する。そのうえで、サプライヤーに原因分析と是正計画の策定を依頼する。この段階で、サプライヤーにおいて改善が進まない様々な事情を認識することも重要である。

第2段階では、是正計画の実行を支援するために、教育・研修、ベストプラクティスの共有、共同改善プログラムの実施等を通じて改善を促進し、再発防止策の実効性を確認する。差し支えがない範囲で、自社の規程類をサンプルとして提供することや、自社での取組方法を情報提供すること等も有用である。

それでも改善が十分に進まない場合には、第3段階として、取引条件の見直しや今後の取引のあり方を慎重に検討することが求められる。この段階では状況がより重要な局面に差しかかるため、最終的な判断を行う前に、サプライヤーとの対話を重ね、改善の可能性を丁寧に探ることが必要である。

各段階においては、サプライヤーとの関係性に十分配慮しながら、適切に実施することが望ましい。また、改善プロセス全体を通じて、サプライヤーとの継続的な対話を重ねることで、より実効性の高い仕組みを共に創り上げることが求められる。

◆ 是正/改善の働きかけ(一例)

第1段階:是正ポイントの伝達

  • リスクが高い点や是正が必要な点をフィードバック
  • 原因分析と是正計画の提出を依頼

第2段階:是正措置・改善の促進

  • 是正計画を実行するために必要な支援を提供
    (教育・研修の支援、ベストプラクティスの共有、共同改善プログラムの推進等)
  • 再発防止策を含む改善を確認

第3段階:関係性の見直し

  • 改善が見込めない場合は取引条件を見直し
  • 必要に応じて契約解除を検討

また、このようなサステナブル・サプライチェーン構築に向けたサプライヤーとの取組に関して、一部では独占禁止法上の問題となり得るか、という議論もある。公正取引委員会の「グリーン社会の実現に向けた事業者等の活動に関する独占禁止法上の考え方」※22によれば、「グリーン社会の実現に向けた事業者等の取組は、多くの場合、事業者間の公正かつ自由な競争を制限するものではなく、新たな技術や優れた商品を生み出す等の競争促進効果を持つものであり、温室効果ガス削減等の利益を一般消費者にもたらすことが期待されるものでもある。そのため、グリーン社会の実現に向けた事業者等の取組は基本的に独占禁止法上問題とならない場合が多い。一方、事業者等の取組が、個々の事業者の価格・数量、顧客・販路、技術・設備等を制限すること等により、事業者間の公正かつ自由な競争を制限する効果(以下「競争制限効果」という。)のみを持つ場合、新たな技術等のイノベーションが失われたり、商品又は役務の価格の上昇や品質の低下が生じたりすることにより一般消費者の利益が損なわれることになり、それが名目上はグリーン社会の実現に向けた事業者等の取組であったとしても、独占禁止法上問題となる。」との見解が示されている。つまり、企業とサプライヤーとの共同の取組のうち、競争制限効果が見込まれない行為(価格等の重要な競争手段である事項に影響を及ぼさない、新たな事業者の参入を制限しない等)は、独占禁止法上問題とならないとされている。

本章では、実務におけるSSCMの具体的なプロセスを概観した。サプライチェーン全体を俯瞰し、課題の把握から是正までを一貫して行うことで、ESGリスクの低減のみならず、サプライヤーとのコミュニケーションを通じた信頼関係の構築にもつながる。

SSCMは企業によって取組の成熟度に差があるものの、サプライチェーン全体での実効性の確保がますます求められる領域である。今後は、効果的なリスク低減をいかに実現するかについて、各企業が自社の実情やリソースを踏まえて考え、取り組むことが求められる。

<本章のポイント>

  • サプライチェーンの整理・指針表明から評価・実態確認・是正までの5プロセスを紹介。
  • それらのプロセスを継続的に実施することで、優先順位を付けて効果的にサプライチェーン上のESGリスクを低減していくことができる。
  • プロセス全体を通じて、サプライヤーと継続的に対話を重ねながら、より良い仕組みを共創していくことが重要である。
  • ※19出典:グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン「CSR調達セルフ・アセスメント・ツール・セットお申込みページ」(2025.11.05)
    https://www.ungcjn.org/activities/help/index.html【外部リンク】
  • ※20出典:一般社団法人電子情報技術産業協会「責任ある企業行動ガイドライン 自己評価シート 詳細版」(2025.11.05)
    https://www.jeita.or.jp/japanese/pickup/category/2021/210910.html【外部リンク】
  • ※21 企業のサプライチェーンにおけるサステナビリティ(持続可能性)パフォーマンスを評価・モニタリングするプラットフォーム。「環境」「労働と人権」「倫理」「持続可能な資材調達」の4つのテーマに基づく評価を提供している。
  • ※22出典:公正取引委員会「グリーン社会の実現に向けた事業者等の活動に関する独占禁止法上の考え方」(2025.11.06)
    https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2024/apr/240424_green.html【外部リンク】

サステナブル・サプライチェーン・マネジメントの推進における実務上の課題

ここまでSSCMの意義や環境・社会・ガバナンスそれぞれの観点で求められる具体的な取組、実務的なプロセスなどを説明してきたが、企業がSSCMに取り組むにあたっては様々な課題が生じうる。SOMPOリスクマネジメントにおいても多くの企業から問い合わせを受けており、取組の広がりと共に企業において実務面での課題を抱える企業も増加していると考えられる。SOMPOリスクマネジメントが様々な企業を支援する中で多くみられた課題について、サプライチェーンの整理と指針表明の段階、デュー・ディリジェンスの段階(現状分析と評価・特定、実態確認、是正・改善等)、またそれぞれの段階に限らずSSCMのプロセス全体を通して生じるものに分けて表4に例示する。

これらの課題に直面した際、一度に全ての問題を解決しようとすると、企業にとって過大な負担となり、継続的な取組に繋がらない可能性があるため、優先順位を付け、自社の現状プロセスやリソースに合わせて段階的に解決策を講じることも重要である。自社の実態に合った方法で着実に課題を解決していくことにより、組織全体として変革を受け入れ、継続的な取組のサイクルを確立しやすくなると考えられる。

SOMPOリスクマネジメントでは、企業のSSCMを支援するサービスを提供しており、各企業の現状や要望に合わせた課題解決のサポートを行っている。(表5)

段階 企業で生じる課題例 SOMPOリスクマネジメントのサービス
サプライチェーンの整理と指針表明
  • 複雑なサプライチェーンをマネジメントするうえで優先的に対応すべき事項の整理
  • 取組推進のための部門間連携や分担の整理
(1)SSCM導入支援
  • 自社の方針やガイドラインに含めるべき要素の整理
  • 専門的知見をふまえた方針やガイドラインの策定
  • 自社の方針やガイドラインのサプライヤー周知、理解浸透
(2)調達方針策定支援
(3)サプライヤーガイドライン策定支援
(4)サプライヤー向け研修
  • 経営層、従業員への理解浸透
(5)社内向け研修支援
デュー・ディリジェンス
  • 効率的なサプライヤー情報の収集
  • 情報収集の対象とするサプライヤー範囲の整理
  • 自社のガイドラインやSSCM関連の国際的な基準をふまえたサプライヤーアンケートの作成
(6)アンケート調査支援
  • アンケート結果や特定の監査基準を活用したサプライヤーの実態確認や是正・改善の働きかけ
(7)ヒアリング/監査支援
プロセス全体
  • 自社のSSCMの推進や国際的な基準、他社の動向等、幅広く相談できる専門的知見の確保
  • SSCMに関する取組状況の段階的な開示
(8)SSCMアドバイザリー支援

表4 SSCMの推進において企業で生じる課題、および各課題の解決に資する
SOMPOリスクマネジメントのサービス※23

※23出典:SOMPOリスクマネジメント作成

SOMPOリスクマネジメントの
サービス
サービス概要
(1)SSCM導入支援 SSCMにこれから取り組む企業を対象とした支援。
事務局/関係者向けのSSCM研修、現状整理、ロードマップ作成を行う。
(2)調達方針策定支援 国際的な基準やガイドライン、他社の事例をふまえたサステナブル調達方針の作成を支援する。
(3)サプライヤーガイドライン策定支援 企業のサステナブル調達方針に基づき、サプライヤー等に要請する事項をまとめたサプライヤーガイドラインの作成を支援する。
(4)サプライヤー向け研修 サステナブル調達方針やガイドラインについての理解浸透を促進するため、サプライヤー向け説明動画を作成する。
(5)社内向け研修支援 SSCMの取組について理解浸透を促進するため、従業員や経営層向けの説明動画を作成する。
(6)アンケート調査支援 サプライヤーの調達方針やガイドラインの順守状況やハイリスクサプライヤーの特定・リスク低減など、目的に応じたアンケート設計を支援する。
(7)ヒアリング/監査支援 サプライヤーへの実地確認、ヒアリング、文書類の確認等により、課題の把握から改善策の提示・仕組みづくり等を支援する。
(8)SSCMアドバイザリー支援 SSCMに関する課題や悩みに対し、社会からの要請事項や他社の動向や先進事例をふまえ、アドバイスや情報提供を行う。

表5 SOMPOリスクマネジメントの
サービスの概要※24

※24出典:SOMPOリスクマネジメント作成

また、課題解決に向けては先進企業の取組を参考にすることも有効なアプローチのひとつであり、貴重な示唆を得ることが期待できる。実際に、先行事例等をロールモデルとして、自社単独でSSCMに取り組んでいる企業もみられる。

ただし、企業によってサプライチェーンの構造や規模、またSSCMの取組段階が様々であることは考慮する必要があり、拠り所とするものが他社の事例だけでは自社に適した効果的なSSCMの推進には限界が生じる可能性がある。そのため、自社の実態に合った、より実効性の高いSSCMを構築するためには、コンサルティング会社や業界団体、大学・研究機関といった専門的知見の活用も有効な手段となるだろう。

本章ではSSCMに取り組む中で多くの企業が直面する課題について取り上げた。これらの課題への対応は、企業にとっては相応の負担となることが想定されるため、限られたリソースで解決策を見出すことが難しく、対応が後回しになってしまったりSSCMの取組が停滞したりする要因にもなり得るだろう。しかし、課題に直面した際もSSCMの目的と意義に立ち返ることが重要である。環境汚染や人権侵害、自然災害、法規制違反といったあらゆるサステナビリティリスクをサプライチェーン全体で特定・管理し、事業継続性の確保を目指す「リスク低減」の観点、そしてサプライチェーン間の連携強化による技術革新や製品・サービス開発、消費者からの信頼獲得、投資家からの評価向上といった企業価値の向上を目指す「機会創出」の観点、これらの目的と意義を常に念頭に置き、課題にも戦略的に取り組むことが推奨される。

<本章のポイント>

  • 企業におけるSSCMの取組が広がると共に、実務面で様々な課題を抱える企業も増加している。
  • 課題解決に向けては先進企業の取組を参考にすることも有効なアプローチのひとつだが、自社の実態に合った実効性の高いSSCMを構築するためには、コンサルティング会社や業界団体、大学・研究機関といった専門的知見の活用も有効な手段と考えられる。
  • 課題に直面した際もSSCMの目的と意義に立ち返り、戦略的に取り組むことが推奨される。

おわりに

本稿では、サステナビリティの観点で考えるサプライチェーン・マネジメントについて、企業が取り組む意義や対応が迫られる背景、取組の内容やプロセス、さらに取組を推進する中で生じる課題について解説した。企業においてSSCMは、社会からの要請に応えるための取組という側面はありつつも、本来の目的・意義であるビジネスの存続に必要な「リスク低減」と「機会創出」の観点を念頭に置き、着実にそして継続的に取組を実践していくことが期待される。本稿がSSCMを実りあるものへと発展させる上で参考となれば幸いである。

  • (注1)損保ジャパンRMレポート280(2025年11月28日)の情報をもとに作成しております。
  • (注2)トップ画像は生成AIを用いて作成しております。

執筆者紹介:廣松 希美 Nozomi Hiromatsu

SOMPOリスクマネジメント株式会社 サステナビリティコンサルティング部
主任コンサルタント
専門はESG外部評価向上支援、人権デュー・ディリジェンス対応支援、SSCM対応支援など

松島 聡子 Satoko Matsushima

SOMPOリスクマネジメント株式会社 サステナビリティコンサルティング部
主任コンサルタント
専門はサステナビリティ/ESG/SDGs推進支援およびセミナー・研修講師、SSCM対応支援など

宮﨑 柚香 Yuka Miyazaki

SOMPOリスクマネジメント株式会社 サステナビリティコンサルティング部
グループリーダー
専門は人権デュー・ディリジェンス対応支援、ESG外部評価向上支援、SSCM対応支援など

参考文献

(1章)サステナブル・サプライチェーンマネジメント(SSCM)とは

独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ)「欧州議会、対象企業大幅減の人権・環境デューディリジェンス法案を採択」(2025.11.04)
https://www.jetro.go.jp/biznews/2024/04/53e945a530301aa4.html【外部リンク】

原文:経済協力開発機構(外務省:日本語仮訳)「OECD責任ある企業行動に関する多国籍企業行動指針(2023年)」(2025.10.27)
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100586174.pdf【外部リンク】

独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ)「欧州議会、持続可能性関連規制の適用延期法案を採択、CSDDDは1年延期、CSRDは2年延期へ」(2025.11.04)
https://www.jetro.go.jp/biznews/2025/04/46deea31edb63b63.html【外部リンク】

独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ)「2024年度海外進出日系企業実態調査|欧州編」(2025.11.04)
https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Reports/01/bf50342a7b795067/20240035rev1.pdf【外部リンク】

一般社団法人日本経済団体連合会「第3回企業行動憲章に関するアンケート結果」(2025.11.04)
https://www.keidanren.or.jp/policy/2024/005_kekka.pdf【外部リンク】

Velázquez Martínez, J.C., and Arnold, V.「“State of Supply Chain Sustainability 2024” (Cambridge, Mass. and Lombard, Ill.: MIT Center for Transportation & Logistics and Council of Supply Chain Management Professionals, September 2024)」(2025.11.04)
https://bpb-us-e1.wpmucdn.com/sites.mit.edu/dist/5/2032/files/2025/11/2024_State-Sustainable-Supply-Chains-MIT-CSCMP_Feb2025.pdf【外部リンク】

年金積立金管理運用独立行政法人「ESG投資」(2025.11.04)
https://www.gpif.go.jp/esg-stw/esginvestments/【外部リンク】

(2章)サプライチェーンにおけるESGの取組とは

国際連合広報センター「ビジネスと人権に関する指導原則:国際連合「保護、尊重及び救済」枠組実施のために(A/HRC/17/31)」(2025.11.05)
https://www.unic.or.jp/texts_audiovisual/resolutions_reports/hr_council/ga_regular_session/3404/【外部リンク】

ビジネスと人権に関する行動計画の実施に係る関係府省庁施策推進・連絡会議「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」(2025.11.05)
https://www.meti.go.jp/press/2022/09/20220913003/20220913003-a.pdf【外部リンク】

(3章)サステナブル・サプライチェーン・マネジメントの実務上のプロセス

グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン「CSR調達セルフ・アセスメント・ツール・セットお申込みページ」(2025.11.05)
https://www.ungcjn.org/activities/help/index.html【外部リンク】

一般社団法人電子情報技術産業協会「責任ある企業行動ガイドライン 自己評価シート 詳細版」(2025.11.05)
https://www.jeita.or.jp/japanese/pickup/category/2021/210910.html【外部リンク】

公正取引委員会「グリーン社会の実現に向けた事業者等の活動に関する独占禁止法上の考え方」(2025.11.06)
https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2024/apr/240424_green.html【外部リンク】

コンテンツ提供:SOMPOリスクマネジメント株式会社

SOMPOリスクマネジメントでは、「リスクマネジメント」に関する様々なリスクソリューションの提供を通じて、お客さまの持続的な成長・発展をご支援します。

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