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既存の防災関連資格における災害ロジスティクスの取り扱い状況と新たな災害ロジスティクス関連資格のカリキュラムに関する一提案

はじめに
近年の我が国においては、災害の発生頻度の高まりに伴い、災害対応に関する資格である「防災士」、「災害備蓄管理士」等への関心が高まり、さらに、2024年には「災害対策士」という新たな資格も立ち上がった。このような状況は、我が国をより災害に強い国とする上で望ましいと言えよう。
ただし、一口で災害対応といっても、様々な分野がある。たとえば、物資を被災者に円滑・迅速に届けるための取り組み、いわゆる「災害ロジスティクス」(この用語の定義に関する、より詳細な説明は次項で行う)も、災害対応の一分野となる。筆者は、この「災害ロジスティクス」に関する調査・コンサルティングについて、主に自治体を顧客として、約20年程度受託してきた。その経験を通じて、既存の防災関連資格における「災害ロジスティクス」の取り扱い状況等について検討した上で、自治体職員を対象とした「災害ロジスティクス」関連資格のカリキュラム案についての提案を行いたい。
「災害ロジスティクス」とは
「ロジスティクス」とは何か、「ロジスティクス」と「物流」の違いは何かといった議論は、しばしば耳にするものであるが、本稿では、「物流」とは荷主等の顧客から発注された輸送・拠点運営等の業務をより効率的に行うための取り組みとした上で、「ロジスティクス」は、それにプラスアルファのサービスを付加して提供するものとしたい。たとえば、拠点運営において、顧客から依頼された物資の迅速な入出庫、拠点スペースを有効に活用した保管体制等を実現するのが物流だとするなら、ロジスティクスは、入出庫される物資の内容の把握・分析まで行い、顧客の取り扱う商品の需要予測等まで行う取り組みを指すものとする(この定義は、あくまで本稿独自のものである)。また、「災害ロジスティクス」については、上記の「ロジスティクス」に関する取り組みの中でも、特に災害時における被災者への物資の供給における取り組みとしたい。
防災関連資格における災害ロジスティクスの取り扱い状況
(1)各種資格に関する検討
①防災士
防災士については、日本防災士機構HPに公開されているカリキュラム等を確認すると、災害ロジスティクスに関連すると思われる項目は、「避難所における物資の調達・分配」のみである。そのため、同資格は災害ロジスティクスについての知識・ノウハウの提供を主な目的としていないと言えよう。
②災害備蓄管理士
災害備蓄管理士については、その名の通り、災害に備えた物資の備蓄にポイントを絞った資格である。その取得のためのテキストにおいては、備蓄することが望ましい物資等といった分野について、災害時における物資供給に関する知識・ノウハウが得られる。同資格のテキストは、資格取得の申し込みをした者にのみ提供されるものであるため、その内容について詳細な説明は行わないが、筆者の個人的な感想としては、特定の企業の備蓄に関する取り組み事例等が特に参考になると思われた。
③災害対策士
災害対策士は、近年の我が国における災害発生頻度の高まり、南海トラフ巨大地震等の将来的な広域災害のリスクへの危惧等から、自治体等の災害対策本部や避難所等の現場をマネジメントする力を育成することを目的として、2024年と比較的近年になって創設された資格である。そのテキストは「災害対策オペレーションbook47」(沼田宗純 2025年 東京大学出版会)として一般販売されている。このテキストにおいて、全47講のうち、災害ロジスティクスに関連すると思われる項目は、「物資の調達・供給」1講(2ページ)のみであり、そのため、同資格は、災害ロジスティクスについての知識・ノウハウの提供を主な目的としていないと言えよう。
なお、同テキストでは、「ロジスティクス」という用語を、物資供給の円滑化のための取り組み等ではなく、「後方支援」という意味で用いており、上記の「物資の調達・供給」ならば、フォークリフト・パレット等の機材の準備、物資拠点における要員確保のための応援要請等がロジスティクス担当者の役割としている。
(2)既存の防災関連資格における災害ロジスティクスの取り扱い状況
前項で述べたように、災害備蓄管理士は、災害ロジスティクスに関連する分野として、特に被災者への物資供給に焦点を当てた資格となっており、既存の災害対応関連資格の中では、 適切な備蓄管理の推進について取り上げた数少ない資格である。ただし、あくまで備蓄に関する資格であり、発災後における避難所への物資供給等については対象としていない。
災害対策士は、主に発災後の対応に焦点を当てた資格であり、避難所への物資供給体制の構築・運営について取り上げている。また、発災後の道路規制に関する知識等、災害ロジスティクスに関連して有用と思われる情報も記載されている。ただし、先に述べたように、災害対策士のテキストにおいては、47分野の中の一つのみが災害ロジスティクスに関するものとなっており、その記載は限られている。これは、同資格が、発災後から復旧までの主に自治体職員の取るべき対策全般を網羅的に取り上げる性格を持つ以上、やむを得ないと思われる。
もちろん、災害時において自治体職員等に求められる対応は広範かつ多岐にわたり、災害ロジスティクスはその中の限定された一分野に過ぎない点は筆者も同意するものである。ただし、災害ロジスティクスについては、災害時における各種の対策の中でも、ある程度は重点を置き、優先順位を比較的高いものとすることが望ましいのではないかと思われる。その理由を次項で述べる。
災害ロジスティクスに関する災害関連資格の必要性が高い理由
繰り返しになるが、発災後の発生直後の対応から始まり、復旧・復興までのプロセスまで対象とするなら、災害関連資格で学習対象とすべき分野が広範かつ多岐にわたるのは当然であり、筆者もそれを否定するものではない。ただし、懸念されるのは、過去の災害において災害ロジスティクス関連業務が、他の業務に比して、自治体のリソース(人員・時間・施設等)を大きく消耗させている事である。
たとえば、東日本大震災において宮城県庁では、災害ロジスティクス関連業務、具体的には、市町村のニーズに対応して必要な物資を調達し、それを市町村に提供する業務を「対策グループ」の4人が行う業務の一つとしていた。だが、発災後間もなく、それらの業務を行うには、この4人のみでは対応することが困難であることが明らかになったため、対策グループの分掌事務から、物資(調達含む)及び物流調整の機能を切り離し、それらの業務は個別専門的なグループが担う体制へと移行したのである(図表1)。
図表1 東日本大震災における宮城県庁の組織体制の変更例
※出典:宮城県「東日本大震災―宮城県の6カ月間の災害対応とその検証」(2012.03)
なお、筆者は東日本大震災で、発災後10日頃から、ある被災地の自治体に災害ロジスティクス関連の支援を行うため、当該自治体の災害対策本部に1週間程度駐在したが、その災害対策本部においては、日を追うごとに、災害ロジスティクス関連業務の担当者が増えていき、最終的に災害対策本部のスタッフの半数程度が災害ロジスティクスの担当者になったという記憶がある。
また、災害ロジスティクス関連業務は、物資拠点等における入出荷等の肉体的な作業が、自治体職員の大きな負担になることを忘れてはならない。たとえば、トラックの荷卸しに要する自治体職員の負担が大きかったことを証言する声もある(図表2)。
(2004年に水害で全国から物資支援を受けた際には)救援物資の到着場所には昼も夜も夜明け前も物資が到着し、担当者は睡眠不足と腰痛で疲労しきっていた。「荷降しの人付で来てくれたらなあ」とぼやいていた。
図表2 兵庫県豊岡市の中貝宗治市長(当時)の証言
※出典:NPO法人レスキューストックヤード「中越発!救援物資はもういらない!?~新しい善意(マゴコロ)の届け方」(2008)
このように、災害ロジスティクス関連業務は、被災地の自治体において、大きな負担となる。そこで、たとえば先に紹介した災害対策士を取得して災害時の対応全般について学んだ資格取得者が希望に応じて、災害ロジスティクスに関する資格を取得できるような体制とすることも一案と思われる。本稿では、そのような災害ロジスティクス関連資格のカリキュラムについて、提案を行いたいと思う。
なお、このカリキュラムは、主に自治体職員を対象とすることを想定したものである。これは、筆者が東日本大震災の発生以降、複数の自治体において、災害ロジスティクスに関する体制の提案、マニュアル案の作成等の業務を行っており、そこで得られた知見が活かせる可能性があることを理由とする。
災害ロジスティクス関連資格のカリキュラム例
(1)カリキュラムの目的
「被災者の生命・健康・尊厳等を守るために必要な物資の供給のために必要な災害ロジスティクスについての習得」をカリキュラムの目的とする。
(2)カリキュラムの骨子・内容等
①過去の災害において示された課題と対応策
1)骨子
我が国の過去の災害において、なぜ、円滑・迅速に被災者へ物資が届けられなかったのか、その状況の改善のために、どのような対策が取られてきたか等を学ぶ。
2)趣旨・具体的な内容等
過去の災害において、被災者へ物資が届けられなかった理由を知り、同じ過ちを繰り返さないための知識、ノウハウを身に着けることが災害ロジスティクスについて学ぶ第一歩となると思われる。被災者へ物資が届けられなかった具体的な理由としては、拠点のスペック・スペース不足、自治体職員の災害ロジスティクスに関するスキル不足等を挙げ、その解決策として床荷重、バース(トラックの積み下ろし場所)の多さ等のスペックが高く、スペースの広い施設の選定や、民間物流事業者との連携の重要性について示す。
②災害ロジスティクスに関する基礎知識
1)骨子
ロジスティクスに関する基礎知識として、トラックの車種別サイズの目安、資機材(パレット、ロールボックス、ハンドリフト等)などについて学ぶ。特に災害ロジスティクスに関する基礎知識として、災害時に被災者へ提供する事が望ましい物資の品目、それら品目の必要量算出基準(「水は1日1人~リットル」等)、保管面積算出基準(「飲料水500mlペットボトルのパレット1枚当たり積載量」等)などについて学ぶ。
2)趣旨・具体的な内容等
過去の災害では、自治体職員のトラックの車種別サイズの目安、資機材(パレット、ロールボックス、ハンドリフト等)についての知識の不足によって、民間物流事業者とのコミュニケーションが円滑に行われなかったとされており、そのような事態の防止につながる基礎知識の取得を目指す。
特に災害ロジスティクスでは、被災者に提供する物資の品目の選定が重要になる。実際の品目の選定においては、本カリキュラムの目的である「被災者の生命・健康・尊厳の維持」のための必要度の高さを考慮することになる。そのため、実際の災害では、水・食料と同程度もしくはそれ以上にトイレ関連物資の必要度が高い(トイレ環境が悪いと、被災者は水・食料の摂取を控え、その結果、エコノミー症候群の発症等につながりやすいため)等の知識を取得する。また、必要度が高い物資の必要量算出基準は、物資の調達計画において必須となる。また、保管面積に関する知識は、拠点の必要面積の算出において有用と思われる。
③拠点関連業務に関する手順と役割分担・留意点
1)骨子
拠点すなわち支援物資の入荷・出荷・保管等を行う施設の選定、開設、運営等における手順と役割分担(特に官民の役割分担)、留意点等について学ぶ。
2)趣旨・具体的な内容等
拠点関連業務の円滑化を図るためには、まず、拠点に適した施設の選定が大前提となる。過去の災害では、市役所等の拠点に適さない施設を拠点としたため、床荷重の不足による床抜け、バース数の不足による積み下ろしトラックの渋滞等の事態を招いた。拠点に適した施設として、最も有力な候補は民間物流事業者の倉庫となるが、災害時に倉庫の空きスペースが確保されるとは限らない。そのため、近年は、本来の用途は倉庫ではないが、倉庫にスペックが近い施設、たとえば、産業展示場、市場、JA施設(集果場、選果場等)などが、いわば疑似倉庫として、災害時の物資拠点に選定される例が増えている。この疑似倉庫の候補施設に関する解説を行う。
また、拠点の運営の円滑化に関する知識として、拠点レイアウト、拠点運営スタッフの組織体制を検討する上での留意点等についても学ぶ。
④輸送関連業務に関する手順と役割分担・留意点
1)骨子
輸送のために使用する手段・機材の選定、手配等における手順と役割分担(特に官民の役割分担)、留意点等について学ぶ。
2)趣旨・具体的な内容等
輸送関連業務の円滑化を図るためには、適切な輸送手段、たとえばトラック・船舶・鉄道・航空機等からの選択を行う必要がある。また、トラックならば車両サイズ、船舶なら船舶のサイズなど使用する輸送機材の選択も重要である。この項目では、そのために必要となる知識・ノウハウとして、各種輸送機関の長所・短所や、様々な輸送機材に関する情報、たとえばトラックならば、2t車・4t車・10t車等それぞれの車両サイズ、旋回半径等を学ぶ。
また、輸送の手配について、トラックならば、自治体職員は輸送の発地・着地・輸送する品目とその数量等を決定し、その情報に基づき、物流事業者の配車に関するスキルを持つ者が適切な車両サイズを選定し、その選定結果に基づき、都道府県トラック協会が当該するサイズのトラックを提供できる会員事業者を確保する等の手順と役割分担が考えられることを学ぶ。トラック以外の輸送手段である船舶・鉄道・航空機等の手配は、フォワーダー(利用運送事業者)に端末輸送等を一括して委託することを提案する。
⑤情報管理
1)骨子
被災者への物資の供給の円滑化に資する情報管理ツール(国の災害時物資供給用システムであるB-PLo(新物資調達・輸送調整等支援システム:Busshi Procurement and Logistics support system)、GIS(地理情報システム:Geographic Information System)等)の内容とその使用にあたっての留意点等について学ぶ。
2)趣旨・具体的な内容等
災害時に限らず、ロジスティクスをより効果的に機能させるためには、情報管理ツールの活用が有効となることが多い。B-PLoは、自治体が国に物資を要請する際等の標準的なシステムとなる予定であるため、災害ロジスティクスにおける重要度が高いと思われる。また、GISは、被害の発生状況や、道路の寸断状況等を地図上に示す等のために用いることで、拠点の立地の選定、輸送ルートの選定等をより適切に行うことにつながることが期待される。
⑥自衛隊・ボランティア等との連携
1)骨子
自衛隊・ボランティア等との連携における留意点等について学ぶ。
2)趣旨・具体的な内容等
自衛隊との連携においては、自衛隊のトラックは、物流事業者のトラックに比して、悪路の走破性は高いが、物資の積載効率、荷役効率等が劣る等の情報を示し、物資輸送は原則として物流事業者のトラックを使用し、同トラックでは走行が困難なルートを使用する輸送等について自衛隊に依頼する等を提案する。ボランティアとの連携においては、自治体によってボランティアへの委託範囲に関する判断基準が異なる事を考慮し、過去の災害におけるボランティアとの連携事例等に関する情報を提供する。
⑦その他(補足事項等)
1)骨子
上記①~⑥以外の災害ロジスティクスに関する知識・ノウハウ等について学ぶ。
2)趣旨・具体的な内容等
上記①~⑥は一般的なロジスティクスと共通する部分も多い。だが、災害ロジスティクスにおいては、災害時ならではの知識・ノウハウも必要となる場合がある。たとえば、生理用品を避難所に届けても、その避難所のリーダが男性である場合、必要な数量を女性被災者に提供できない事例等が報告されている。そのため、女性が必要とする物資については、その配布方法について、生理用品は女性用トイレに置き、女性が自分で必要数量を取る等の工夫をする必要がある。
KEYWORD フォワーダー(利用運送事業者:Freight forwarder)
トラック以外の輸送手段である船舶・鉄道・航空機等を使用する場合、トラック輸送のみの手配に比べて、必要な業務量が大きくなり、専門的な知識も必要になることから、その難度も高くなりやすい。この船舶・鉄道・航空機等の輸送の手配について、たとえば船舶輸送ならば、船舶の手配に加えて、端末のトラック輸送、港湾の使用に関する手続き、港湾における荷役の手配等を含めて一括して委託できるのが、一般にフォワーダーと呼ばれる利用運送事業者である。なお、トラックのみを使用する輸送においても、フォワーダーに委託することが可能だが、災害時における自治体の物資輸送においては、特にトラック以外の機材を使用する輸送の手配において、その必要性が高まると思われる。
- (注1)2026年5月時点の情報をもとに作成しております。
- (注2)トップ画像は生成AIを用いて作成しております。
コンテンツ提供:NX総合研究所
NX総合研究所は、60年以上の実績を持つ物流に特化した「ロジスティクスのプロ」です。「ひと」「モノ」「環境」という幅広い視点から、国内だけでなくグローバルで、物流コストの削減、作業の効率化、品質向上という身近なテーマに加え、サプライチェーンの全体最適化や物流会社の経営支援までお手伝いしています。





























