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自治体・国の災害用物資管理システムにおける問題点とその対応策

自治体・国の災害用物資管理システムの現状
本稿では、災害時に被災者へ供給される物資の在庫管理、輸送管理等を行う情報システムを「災害用物資管理システム」と呼ぶ。この災害用物資管理システムの自治体・国等における開発・導入は、2011年の東日本大震災の発生以降に活発化した。これは、同震災において被災者に供給する物資の調達・物流等が大きく混乱し、その対応策が求められたことを理由とする。
自治体においては、自らが保管する備蓄物資の管理を主な目的として、災害用物資管理システムを導入するケースが増加した。ただし、多くの自治体は、備蓄物資を保管する備蓄倉庫内が混乱しており、どこにどのような備蓄物資があるかも分からないという、災害用物資管理システムを導入する以前の段階にあったため、まずは、民間事業者に備蓄倉庫の棚卸、整理整頓、物資レイアウト図の作成等を委託するようになった。たとえば、東京都の北区において、備蓄倉庫の棚卸、整理整頓等を行った例が図表1である。
図表1 北区の備蓄倉庫における棚卸・整理整頓を実施した例
- 出典:ジチタイワークスWEB、2023-08-18東京都北区
「防災備蓄倉庫の管理を抜本的に見直す5カ年計画。整理整頓で誰もが使いやすい倉庫へ。」
https://jichitai.works/article/details/1994
そして、この備蓄物資の棚卸等の業務を完了した自治体の中には、備蓄物資の管理をより効率的に行えるようにするため、備蓄物資に関する災害用物資管理システムを導入するケースも出てきた。
国においては、これも東日本大震災以降、災害用物資の調達・供給等のための災害用情報システムの開発が開始された。同システムは「物資調達・輸送調整等支援システム」と呼ばれ、初めて使用された大規模災害は、令和6年能登半島地震(以下「能登半島地震」とする)だった。また、能登半島地震で生じた課題等を踏まえ、さらなる視認性及び操作性の向上や、円滑な物資支援が可能となるよう、新たに機能を追加した「新物資システム(呼称B-PLo(Busshi Procurement and Logistics support system))」が、令和7年4月より運用を開始している。
このように、東日本大震災以降、自治体・国においては、各種の災害用物資管理システムが開発・導入されてきた。だが、これらの災害用物資管理システムは、各自治体そして国それぞれが別々に開発・導入してきており、いわば、多数の異なる災害用物資管理システムが乱立している状況にある。本来なら、全ての自治体そして国において、同一の災害用物資管理システムが使用されている方が、災害時において円滑・迅速に連携できる可能性が高いはずである。それにも関わらず、なぜ、現在のように多数の災害用物資管理システムが乱立するような状況になったのかを次項で説明したい。
多数の災害用物資管理システムが乱立するようになった理由
(1)我が国における災害用物資の物流体制と役割分担
我が国において、多数の災害用物資管理システムが乱立するようになった理由を理解するには、まず、我が国における災害用物資の物流体制と役割分担について知る必要がある。この我が国における災害用物資の物流体制と役割分担について整理したのが図表2である。
図表2 我が国における災害用物資の物流体制と役割分担
- 出典:国土交通省「ラストマイルにおける支援物資輸送・拠点開設・運営ハンドブック」(平成31年3月)に基づき
株式会社NX総合研究所が作成
災害用物資の基本的な流れは、「国→都道府県の物資拠点→市町村の物資拠点→避難所」となる。この流れにおいて、国の役割は「都道府県の物資拠点に物資を届けるまで」であり、都道府県の役割は「市町村の物資拠点に物資を届けるまで」であり、「避難所に物資を届ける」のは市町村の役割となる。これは、別の言い方をすれば、国は都道府県の物資拠点に物資を届けるまでしか責任を持たず、それ以降については関与しない、そして都道府県は市町村の物資拠点に物資を届けるまでしか責任を持たず、それ以降については関与しない。つまり、最終的な目的地である避難所に物資が届くかどうかについては、全て市町村の責任となり、国・都道府県は原則として支援してくれないのである。すなわち、災害用物資の上流から下流まで一元的に管理している組織は存在せず、その結果、過去の災害では、国が手配した物資が、今どこまで届いているか、いつ市町村に届くのかが分からないという事態になりがちだった。このような体制を背景として、国・都道府県・市町村は、災害用物資管理システムの開発・導入に関して、原則としてお互いに干渉せず、多数の災害用物資管理システムが乱立する結果となったのである。
(2)国・都道府県・市町村の関係性
行政組織に対する一般的なイメージとして、国→都道府県→市町村というヒエラルキーが存在しており、国は都道府県へ命令し、都道府県は市町村に命令すると思われがちである。だが、実際には、国の首相、都道府県知事、市町村長はいずれも選挙等の法的根拠を持つ手段で選ばれていることから、対等の存在であり、そこに上下関係は無いとされている。したがって、国が都道府県・市町村に特定の災害用物資管理システムを導入することを強制することはできない。都道府県と市町村の関係も同様である。これも、多数の災害用物資管理システムが乱立している理由である。
ただし、国は自治体に強制はできないものの、依頼・提案することはできる。たとえば国は、「物資調達・輸送調整等支援システム」を開発後、同システムについて各自治体に紹介する場を設け、その使用を呼びかけた。だが、筆者が把握している範囲でも、同システムの操作性の悪さ等を理由として、使用を拒否している自治体は存在する。
近年における自治体の災害用物資管理システムの動向
自治体の災害用物資管理システムについては、備蓄物資の棚卸、整理整頓等の備蓄品管理サービスの一環として販売されることが多い。これら備蓄管理サービスの概要と災害用物資管理システムの国システムとの連携性につき、サービスを提供する企業ごとに例示したのが図表3である。
図表3 自治体に備蓄物資関連サービスを提供している企業の例
- 出典:各社HP等の内容に基づき株式会社NX総合研究所が作成
- (注1)株式会社エイジスHPより
- (注2)内閣府「新物資システム(呼称B-PLo)」を指す。
これらの企業は、東日本大震災が発生する前から、民間企業の倉庫の棚卸や点検作業、倉庫保管物資の管理システムの提供等を行っていたが、東日本大震災の発生以降は、自治体における備蓄物資管理サービスのニーズの高まりを受け、自治体へのサービスの提供を始めるようになったものである。また、図表3に示した企業については、いずれも、既に自治体からの業務受託実績があることが確認されている。
なお、この図表3に示した企業の災害用物資管理システムは、その提供事業者によって、国の災害用物資管理システムであるB-PLoとの連携機能を持つとされている。だが、筆者は、実際には自治体の災害用物資管理システムと国のB-PLoとの連携は、必ずしも円滑に実現できないのではないかと考えている。異なる自治体間での災害用物資管理システムの連携についても同様である。その理由は複数挙げられるが、特に重要と思われるのは、各システムの「品目分類」が統一されていないことにある。この点については、後に述べる。
図表3に示した企業は、あらかじめ開発している災害用物資管理システムを提供しているが、自治体によっては、新たに専用の災害用物資管理システムを開発している例もある。たとえば枚方市は、備蓄倉庫の管理に加えて、配送状況の管理まで行える災害用物資管理システムを開発した。また、富山県は、能登半島地震において支援を行った際の経験に基づき、避難者の人数やニーズなどを把握し、AIを活用して物資の適切な配分方法を短時間で導き出すシステムを開発している。同県では、避難所での人や物資の情報を一体的に管理できるシステムは全国的にも珍しいとしている。この富山県のケースは、県が市町村を支援するための災害用物資管理システムを開発したという点で、従来に無かった取組と言えよう。先に述べたように、都道府県は、避難所への物資供給については市町村の責任として、関与しない傾向にあった。だが、過去の災害における経験を踏まえ、そのような体制を変えようとする動きが出てきている一例と言えよう。ただし、これらの新たに開発されたシステムについても、国・県外自治体との連携は困難な可能性が高いと思われる。その理由も、既存のシステムを使用する場合と同様に、品目分類が統一されていないことが理由である。
災害用物資管理システムにおける「品目分類」設定の困難性とその対応策
(1)「品目分類」設定における課題
過去の災害では、様々な災害用物資管理システムが使用され、その問題点が示されてきた。具体的には、操作方法が分かりにくい、複数の人間が同時に操作できない等であるが、筆者が特に大きな問題と考えるのは、「品目分類」設定の困難性である。品目分類とは、災害時に被災者に様々な物資、たとえば、おにぎり、パン、カップ麺、飲料水、トイレ、生理用品等が提供されるが、その物資の品目の種類分けである。この品目分類の設定が適切ではないことが、過去の災害において、円滑な物資供給の阻害要因となることが多かった。
たとえば、品目分類については、被災者が必要とする物資が網羅されていることが必要になる。だが、災害を経験する機会、経験する人は限られるため、災害時に必要となる物資を想定するのは容易ではなく、実際に災害時の物資供給に対応するようになって初めて知ることも多い。たとえば宮城県倉庫協会は、東日本大震災が発生する以前より、将来的な災害に備えて、新潟県中越地震等に関する情報に基づき、既に災害用物資管理システムを開発していた。だが、東日本大震災発生後にそのシステムを使用しようとしたものの、実用には耐えないことが判明した。その理由は、新潟県中越地震の経験に基づき、品目分類を100程度としていたのに対して、東日本大震災では、1,000を超える品目が必要になったのである。これは、新潟県中越地震に比較して、東日本大震災は避難期間が長く、それだけ、多くの種類の品目が必要となったことを理由とする。
また、一つの品目カテゴリーについて、どこまで細かく分けるかも問題となる。たとえば「パン」という品目カテゴリーについては、食パン、総菜パン、菓子パン等に分けることが考えられる。だが、東日本大震災においては、被災者からクロワッサンのニーズが非常に大きくなり、そのため、自衛隊において、被災者のニーズを聞き取る際に、パンが欲しいと言われた場合、クロワッサンが欲しいのか、それ以外のパンでも良いのかを確認するようにとの指示が出された例がある。
さらに、同一の品目について呼称が異なる場合がある。災害時に提供される食品として代表的であり、自治体も備蓄していることが多い物資に、水もしくはお湯をかけると食べられるようになる米飯がある。この物資の呼称は「アルファ化米」と「アルファ米」の2つがあり、生産しているメーカーにおいても統一されていない。だが、備蓄物資に関するデータをデジタルデータとして扱う災害用物資システムでは、この2つは別のものとして認識される。現行の自治体の備蓄物資管理においても、この点は課題となっており、たとえば、岐阜県大垣市では、自市の備蓄物資管理において発生していた問題として、「物資の表記名は担当者ごとに違うのです。同じ物資でも正式名称で表記しているケースもあれば、略称を使っている場合もある。そうすると、それらが同じものなのかはっきりしません。」と述べている(webサイト「防災ニッポン」より)。
筆者が物流事業者と連携して、自治体の備蓄物資の在庫リストを作成する業務を行った際にも、同様の問題が発生した。物流事業者の異なる作業者が異なる備蓄倉庫で在庫リストを作成すると、同じ物資でも、異なる品目名とされるケースが多発したのである。たとえば、「ガソリンを缶に入れて保管できるようにした物資」について、図表4のように多数の品目名が設定され、混在することとなった。単に「ガソリン」としている場合もあれば、20リットルという内容量に関する情報を加えている場合もある。また、同じ20リットルという内容量に関する情報についても、「リットル」という単位の表記法は「L」、「ℓ」、「㍑」と複数のパターンがある。
ガソリン、ガソリン缶、ガソリン缶(赤)、ガソリンタンク(赤)、ガソリン缶詰、
ガソリンの缶詰、ガソリン携行缶、非常用ガソリン缶詰、ガソリン携行缶20L、
20L、ガソリン携行缶20ℓ用
図表4 同一の物資について複数の品目名が設定された例
実際の災害で使用された災害用物資管理システムにおいて、この「品目分類」設定に関して発生した問題の例としては、国の災害用物資管理システムである「物資調達・輸送調整等支援システム」が本格的に使用された能登半島地震で、新たな品目の登録が必要となり、また、登録に要する操作が複雑であることが指摘されたことが挙げられる。このように、国の災害用物資管理システムの品目分類が、実際の災害において必要となる物資の品目を網羅できていないこと、その更新に関する操作性が必ずしも良いとは言えないこと、さらに筆者が確認した範囲では、国の「物資調達・輸送調整等支援システム」の品目分類が、自治体の災害用物資管理システムの品目分類との整合性を十分に考慮していないと思われること等が、先に述べたように、国と自治体で災害用物資管理システムの連携が円滑に行われない可能性が高いと予想する理由である。
この品目分類は、民間企業における製品の製造、販売等用のシステムにおいては「商品マスタ」と呼ばれるものの重要な構成要素の一つとなる。民間企業においては、この商品マスタがメーカー、卸、小売、物流事業者等で共有されており、品目分類が標準化されていることが多いため、調達や物流が円滑に行われ、各参加者の情報システム間の連携も行いやすい。スーパー等のセルフレジで商品のバーコードをスキャンすると商品名がディスプレイに表示されるが、これも商品マスタを構成する品目分類が整備されているから可能となっている。
それに対して、災害用物資については、この商品マスタが国・自治体という参加者の間で統一されておらず、いわば、出前を取る際に、店と客が別々のメニューを見ている状態となる可能性がある。そのため、国と自治体の災害用物資管理システムの連携も困難になることが危惧される。
(2)「品目分類」設定に関して求められる対策
将来的な災害において、物資の調達・供給に関わる物流が円滑に機能するためには、国・自治体の災害用物資管理システムの品目分類の標準化が望まれる。この標準化のためには、まず、過去の災害において、どのような物資が必要とされたかについて、十分な情報を収集する必要がある。そのような情報の収集手段の一つとして有効と思われるのは、過去の災害で使用されたweb受給マッチングシステムに蓄積された情報の活用である。web受給マッチングシステムとは、web上で被災者が必要な物資の品目・数量を提示し、それを確認した支援者が物資を送るシステムである。支援者は物資を送る前に、どれだけの物資を送れるかを連絡し、その内容がweb上に反映されるため、過不足なく物資が被災者に届く。このweb受給マッチングシステムは、東日本大震災において「ふんばろう東日本」というサイトで最初に開始された。筆者は、東日本大震災の発生後、この「ふんばろう東日本」のサイトを参考にして作成した品目分類を自治体に納品している。また、アマゾン社の「ほしいものリスト」も同様のシステムであり、現在は、徳島県等がアマゾン社と協定を締結し、災害時に「ほしいものリスト」を使用することとしている。
また、災害時に供給する物資について、時代の変化に応じて、新たな品目の追加が必要になる場合もある点にも注意が必要である。たとえば、近年は外国人の割合が高まっている自治体が増えているが、外国人は宗教上の理由等により、食事の内容に配慮が必要となる場合があり、たとえばイスラム教徒は、豚やアルコール等を飲食できず、イスラム法に基づいて製造・提供された商品であることを示すハラル認証を取得している食品が必要となる。そのため、自治体の備蓄物資にハラル認証を取得した食品が加えられるケースが増えている。その他に新たに必要とされるようになった物資として、東日本大震災では粉ミルクを使用する際に飲料水が必要になる点が課題となったため、近年は液体ミルクを備蓄する自治体が増加している。このような時代の変化に対応して、品目分類は更新されていく必要がある。
KEYWORD B-Pro(Busshi Procurement and Logistics support system)
B-Proとは、内閣府が令和2年度から運用している「物資調達・輸送調整等支援システム」について、能登半島地震活用時等の改善要望を踏まえ、操作性等を改良したシステムである。同システムについて内閣府は、「現行システムの基本機能はそのままに、二次元コードを活用した作業効率の向上、物資の配送状況の可視化や将来の各種システムとの連携に向けた機能等を加え、応援職員でもより直感的に使いやすくなった」としている。
- (注)出典:内閣府「防災情報のページ」
- (注1)2025年5月時点の情報をもとに作成しております。
- (注2)トップ画像は生成AIを用いて作成しております。
コンテンツ提供:NX総合研究所
NX総合研究所は、60年以上の実績を持つ物流に特化した「ロジスティクスのプロ」です。「ひと」「モノ」「環境」という幅広い視点から、国内だけでなくグローバルで、物流コストの削減、作業の効率化、品質向上という身近なテーマに加え、サプライチェーンの全体最適化や物流会社の経営支援までお手伝いしています。





























