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  • トレンドレポート

内航海運にあらためて寄せられる期待と発展の可能性

内航海運にあらためて寄せられる期待と発展の可能性

はじめに

国内貨物の海上運送(内航海運)は、国内貨物輸送のうちトンキロベースで約4割を担っており、特に鉄鋼、石油製品、石油化学製品、セメントといった産業基礎物資については約8割を担っていることから国内物流にとって不可欠の輸送手段となっている。また、物流の2024年問題の解決策のひとつとして期待されているモーダルシフトの受け皿としても重要な役割を担っている。一方で内航海運暫定措置事業の終了による事業者間の競争促進という事業環境の変化に加え、労務環境の特殊性や少子高齢化によって内航貨物船員の減少が進み、今後もその輸送能力を維持していくためには、取引環境の改善や、船員の働き方改革、運航・経営効率化等による生産性向上に向けた各種取組が必要とされている。本稿では、そうした社会的要請に応える民間と行政の取組をいくつか紹介したい。

A社の取組:予想労働時間管理システムの開発・導入

(1)従来の課題

船員の働き方改革に取り組むことが各社に求められている中、運航が全国に渡る不定期航路では、トラブルによる停船、急な依頼等によるスケジュール変更にも都度対応が必要であり、配船業務には高い個人的技能が求められてきた。また、内航海運業法等の改正を踏まえ適切に労務管理を行うための仕組も必要となっていた。

(2)取組内容

上記の課題解決のため、A社では船員一人一人の労働パターンに基づいた勤務予定表と予想労働時間を自動的に作成し、船舶の動静管理における要所(入港、出港等)ごとに勤怠実績と照合することで、予定と実績を比較可能な「予想労働時間管理システム」を開発・導入した(図1)。これによって、時間外労働が予期される場合にアラームを発するなど適切な労務管理を推進し、また、作業時間に影響する各港での積載数量の調整作業を支援することによって、ひいては全体的な配船・運航効率向上に寄与するものである。

このシステムの導入により、A社では具体的な効果として、労働時間(予定・実績)の可視化による時間外労働の抑止、船員の負担軽減、勤怠実績報告や時間外労働報告のための作業短縮が期待されるとしている。

これは、かねてから長期間乗船と長時間労働が当たり前とされてきた内航海運業界において、適切な労務管理を実現し、あらためて若手船員を確保していくためにも有効な取組であると考えられる。

図1 船員の予想労働時間管理システムの概要

図1 船員の予想労働時間管理システムの概要

  • 出典:国土交通省

B社の取組:ワークライフバランスを重視した短期乗船サイクルの導入

(1)従来の課題

これまで内航海運業界では、いわゆる「3か月乗船・1か月休暇」ローテーションが一般的であり、長期間帰宅できない勤務形態のために若い世代などに敬遠される傾向があった。また、予期しない乗船期間の延長や休暇の短縮などの積み重ねが退職理由として挙げられており、若手船員や中途求職者が定着せず人員体制が縮小し続けていってしまうという懸念も持たれていた。

(2)取組内容

上記の課題解決のため、B社ではより間隔が短く、ワークライフバランスを重視した「23日乗船・7―8日休暇」を採用した。また、あわせて船員が自らのワークライフバランスを維持しやすく、乗船する船舶を固定化する取組やBCPにも配慮した予備船員確保などの取組を組み合わせることによって、船員の定着率向上を図ったものである。

この取組により、B社では若手船員の確保とともに高齢化に歯止めをかけ、安定的な運航の実現に結び付けている。また、乗船・休暇のムラを減らし、月間給与を平準化・安定化することで、経営上のリスク低減にも繋がったとしている。

C社の取組:スマート内航船の開発・導入

(1)従来の課題

先述のとおり、船員不足と高齢化、働き方改革が課題となっている内航海運業界において、特に199総トン型に代表されるような小型タンカーでは、一般的に少人数で船舶の運航と荷役等作業を行っているため、船員の労務負荷軽減が求められている。そうした中、大型の外航船で活用されているような先端技術を小型の内航船向けにも開発・導入することによって、船員の荷役作業、離着桟作業、機関部作業の労務負荷を軽減することができないか検討が進められてきた。

(2)取組内容

上記の課題解決のため、C社では通常であれば甲板上において3~4人が行わねばならない荷役作業を操舵室からの操作で可能とする「集中荷役遠隔システム」、岸壁との距離や周辺状況を監視しながら安全な離着桟作業を可能とする「離着桟支援システム」、陸上から荷役作業や機関室内機器の遠隔監視、運航データの蓄積を可能とする「遠隔監視システム」を導入したものである(図2)。

この取組により、C社では小型内航タンカー特有の荷役作業を中心として、船内作業の省人化と労務負荷軽減低減を実現できるとしている。

図2 スマート内航船の概要

図2 スマート内航船の概要

  • 出典:内航ミライ研究会

行政の取組

(1)「自主宣言」推進運動の開始

前項までに挙げたような、「働き方改革」「取引環境改善」「生産性向上」に資する自主的な取組の推進に向けた業界全体の機運醸成を目的として、国土交通省海事局は2024年6月に「みんなで創る内航」推進運動を開始している。

この運動は、自主的な取組を行う内航海運業者がその取組を実施する旨の「自主宣言」を予め行い、次に国土交通省が「自主宣言」を行った事業者をHP 等で公表して取組を積極的にPR し、同時に「自主宣言」を行った事業者自身が認証マーク(図3)を用いて当該取組を積極的にPR するものであり、これによって内航海運業の魅力を対外的に発信するだけでなく、求職者等への訴求力を向上することにも寄与することとしている。

あくまで自主的な宣言を推進する運動ではあるものの、趣旨に賛同する内航海運業者が徐々に広がりつつあり、2025年3月時点で参加事業者数は30社に達している。

図3 「みんなで創る内航」認証マーク

図3 「みんなで創る内航」認証マーク

  • 出典:国土交通省

(2)望ましい商慣習の「ガイドライン」の提示

内航海運における「船員の働き方改革」、「取引環境改善」、「生産性向上」を推進することは海事産業強化法に盛り込まれた重要な施策であり、こうした各種制度を実効性のあるものにするため国土交通省海事局は2022年3月に、内航海運業者と荷主が遵守すべき事項等を「内航海運業者と荷主との連携強化のためのガイドライン」を公表している。さらに、2025年3月には内航海運業者・荷主・国が参加する「安定・効率輸送協議会」等での議論も踏まえ、改善事例集と共に第2版として改訂したところである(図4)。

図4 「内航海運業者と荷主との連携強化のためのガイドライン」及び改善事例集

図4 「内航海運業者と荷主との連携強化のためのガイドライン」及び改善事例集

  • 出典:国土交通省

おわりに

内航海運が社会に必要とされる輸送サービスを持続的に提供し続けるためには、寡占化が進む荷主企業の下で専属・系列化が進み、旧来の商慣習から容易には逃れられない構造的な問題に相対しながらも、新たな取組に挑戦していく姿勢が必要である。他方、99%以上が中小企業で占められており、元来その事業基盤が弱い上に、少子高齢化の影響も確実に生じていることから、民間事業者の努力のみでは課題解決は困難である。そのため、今後は本稿で紹介したような先進的な取組が官民連携のもとでより一層推進され、中小事業者を含め全国的に波及していくことが期待される。

KEYWORD 内航海運暫定措置事業とは

内航海運暫定措置事業とは、1967年から船腹過剰対策として実施してきた船腹調整事業(スクラップ・アンド・ビルド方式)の解消に伴う経済的な混乱を抑止するために暫定的に導入された船腹供給規制。船舶の代替建造を促すとともに需給調整機能を担ってきたが、その役割を終え2021年8月に終了した。これによって、内航海運市場は自由に船腹を供給できるようになり、今後は各社間の競争がより激しくなると見込まれている。

  • (注1)2025年7月時点の情報をもとに作成しております。
  • (注2)トップ画像は生成AIを用いて作成しております。

コンテンツ提供:NX総合研究所

NX総合研究所は、60年以上の実績を持つ物流に特化した「ロジスティクスのプロ」です。「ひと」「モノ」「環境」という幅広い視点から、国内だけでなくグローバルで、物流コストの削減、作業の効率化、品質向上という身近なテーマに加え、サプライチェーンの全体最適化や物流会社の経営支援までお手伝いしています。

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