人事・労務系のリスク
労災保険とは?
労災保険の対象・労災保険制度について解説
起業してから日が浅い経営者の方は、労災保険(政府労災保険をいいます。以下、同様とします。)の補償範囲がわからない、補償内容について詳細まで理解できていない、と不安に感じることも多いかもしれません。
労災保険は、労働者の傷病に対する保険給付と、被災した労働者の社会復帰の促進などを目的とした保険です。ただし、労災保険だけでは補償額が足りないケースや、給付までに時間がかかるケースも少なくないことを心に留めておきましょう。
本記事では、国の公的保険制度である労災保険の対象や労災保険制度のポイントを解説します。また、十分な補償を受けるための備えとなる、民間の保険会社等が提供する労災上乗せ保険についても確認してみましょう。
労災保険制度とは?
労災保険は正式名称を労働者災害補償保険といい、労働保険の一種です。労働保険には労災保険のほかに雇用保険があります。
一人でも労働者を雇っている事業者は、原則として、業種や規模を問わずこの制度の加入が義務付けられています。労災保険の対象となる労働者にはパート・アルバイトも含まれ、雇用形態は関係ありません。
労災保険は、労働者の傷病に対する保険給付と、被災した労働者の社会復帰の促進などを目的とした保険です。なお、労災保険制度の保険給付は、大きく業務災害と通勤災害の2種類に分けられます。
まずは業務災害と通勤災害それぞれの詳細を見てみましょう。
業務災害
業務災害とは、労働者が業務を原因として負ったケガ・病気・障害、または死亡することを指します。勤務時間中であっても、業務に関係のない私的な行動や故意でケガをした場合などには適用されません。業務災害とみなされるのは以下のようなケースです。
- 工場内での作業中にフォークリフトに轢かれ、ケガをした
- 社用車で移動中に交通事故に遭ってケガをした
- 出張中、取引先の廊下に積んであった商品が崩れケガをした
- 半年間、月100時間以上の時間外労働を強いられ、うつ病を発症した
通勤災害
通勤災害とは、労働者が所定の移動中にケガや病気を被ること、または死亡することをいいます。通勤災害に該当するケースは、以下のような移動中での災害です。
- 家と就業場所の往復
- 単身赴任先と帰省先の移動中
- 就業場所からほかの就業場所への移動中
労災保険の補償が適用される内容と給付額
労災保険は、補償の種類によって適用される給付内容と給付額が異なります。ここからは、補償の種類ごとに給付内容と給付額をチェックしてみましょう。あわせて、労災保険料の計算方法も解説します。
補償額の内容と給付額
補償の種類に応じた給付内容と給付額は、以下のとおりです。なお、給付基礎日額とは労働基準法の平均賃金に相当する額をいいます。平均賃金とは業務上または通勤による負傷や死亡の原因となった事故が発生した日または医師の診断により疾病が確定した日の直前3か月間にその労働者に対して支払われた賃金の総額(ボーナスや臨時に支払われる賃金を除く)をその期間の暦日数で割った1日あたりの賃金額を指します。
労災保険の 補償の種類 |
給付内容および給付額 |
---|---|
療養(補償) 給付 |
傷病で療養するとき 【給付額】 |
休業(補償) 給付 |
傷病の療養で働けず、賃金を受け取れないとき 【給付額】 |
障害(補償) 給付 |
■障害等年金 【給付額】 障害特別給付金として342万円から159万円の一時金、障害特別年金として算定基礎日額の131日分から313日分の年金 |
■障害等一時金 【給付額】 障害特別支給金として65万円から8万円までの一時金、障害特別一時金として算定基礎日額の503日分から56日分の一時金 |
|
遺族(補償) 年金 |
■遺族等年金 【給付額】 遺族特別支給金として遺族の数に関わらず一律300万円、遺族特別年金として遺族の数などに応じて算定基礎日額153日分から245日分の年金 |
■遺族等一時金
【給付額】 |
|
葬祭給付 (葬祭料) |
死亡した人の葬祭を行うとき 【給付額】 |
傷病(補償) 年金 |
傷病が療養開始後1年6ヶ月を経過した日またはその日以降に、以下(1)(2)いずれにも該当するとき
【給付額】 |
介護(補償) 給付 |
障害補償年金または傷病補償年金受給者のうち、第1級または第2級の精神・神経障害および胸腹部臓器の障害があり、現に介護を受けているとき 【給付額:常時介護の場合】 【給付額:随時介護の場合】 |
二次 健康診断等 給付 |
事業主が行った直近の定期健康診断で、以下(1)(2)いずれにも該当するとき
【給付内容】 |
労災保険料は企業が全額負担し、雇用している従業員に支払う賃金の総額に労災保険率を乗じて計算します。以下が計算式と保険料の例です。なお、賃金総額は基本給に通勤手当や扶養手当、賞与などを加えて計算します。
【計算式】
労災保険料=全従業員の前年度1年間の賃金総額×労災保険率
【計算例】
全従業員の前年度1年間における賃金総額4,500万円の建築事業(保険料率9.5/1,000)の場合
4,500万円×0.95%=427,500円
労災保険率は事業の種類に応じて決定されます。例えば上記の建築事業であれば9.5/1,000、食料品製造業は6/1,000、交通運輸事業は4/1,000などとなっています。事業分類別の労災保険率は、厚生労働省ホームページから確認可能です。
労災保険の加入条件と手続き
上記でも触れたとおり、従業員を1名でも雇っている事業者は、労災保険の加入が義務付けられています。ここからは、労災保険の適用者と加入手続きについて見ていきましょう。
労災保険の適用者
労災保険は、事業に使用されるすべての労働者に対して適用されます。そのため、契約社員やパート・アルバイトといった雇用形態、事業規模、雇用期間、労働時間などは関係ありません。海外派遣者については、特別加入制度があります。
代表取締役をはじめとして労災保険の適用者とならない方もいますが、役員でも労働者と同様の立場の場合は適用となるケースもあります。
適用者と なる者 |
|
---|---|
適用者と ならない者 |
|
なお、労災保険はすべての労働者へ適用されますが、雇用保険には条件があります。「週の労働時間が20時間以上かつ31日以上の雇用見込みがある」などの雇用条件を満たした場合、雇用保険に加入しなければなりません。
労災保険の加入手続き
労災保険の加入に際しては、以下の書類を期限内に所定の機関へ提出する必要があります。
必要書類 | 提出期限 | 提出先 |
---|---|---|
保険関係 成立届 |
保険関係の成立翌日から10日以内 | 所轄の労働基準監督署 |
労働保険概算 保険料申告書 |
保険関係の成立翌日から50日以内 | 所轄の労働基準監督署または都道府県労働局、日本銀行の代理店または全国の銀行・信用金庫・郵便局のいずれか |
保険関係の成立日は、初めて従業員を雇い入れた日です。上記に加えて、事業所の実在や事業実態などを確認するために、登記簿謄本といった事業主関係の書類の提出が必要になります。
また、建設業など一部業種を除いて雇用保険と労災保険をまとめて加入手続きするのが一般的です。雇用保険の加入手続きには、事業主関係の書類以外に雇い入れ通知書などの被保険者関係書類の提出も必要です。(一元適用事業所(建設・農林水産業・官庁以外の事業所)の場合)
なお、保険料は労災保険と雇用保険をあわせ、労働保険料として徴収されます。
労災保険の申請方法
労災保険の補償を受けるためには、所轄の労働基準監督署へ申請し、認定を待たなければなりません。労災保険申請の3ステップを確認しましょう。
- 労災の給付は、労働者もしくは遺族が行い、事業主は申請をサポートする役割を担います。
-
請求書を入手
給付の種類によって書類は異なります。給付内容に応じた請求書の様式を確認し、厚生労働省のホームページや所轄の労働基準監督署から取り寄せましょう。
-
請求書に記入
請求書には、労災事故の発生状況が記載内容のとおりであることを事業主が証明するための派遣先事業主証明欄があります。請求書は企業または労働者本人のいずれが作成しても問題ありませんが、事業主の証明は必須です。
-
請求書を所轄の労働基準監督署へ提出、調査結果を待つ
添付書類とあわせて請求書を所轄の労働基準監督署へ提出します。労働基準監督署による調査が行われ、労災事故と認定されると保険給付がされる流れです。
労災保険だけで補償額が足りない場合は?
労災保険の補償額が不十分な場合や、給付日よりも早めに補償を受けたい場合には、労災上乗せ保険を利用しましょう。
労災保険を利用すれば十分な補償が受けられるように思えますが、実際には損害すべてに対して補償されるわけではありません。労災保険対象外となる労働者を補償したい場合、会社の過失により従業員が死傷し損害賠償請求を受けた場合などは労災保険だけでは不十分となるケースがあります。また、労災保険は給付まで時間がかかるケースも往々にしてあります。
そういった場合、労災上乗せ保険の利用が大きな手助けとなるでしょう。労災上乗せ保険を使うことで政府労災の不足分を補えるほか、政府労災では補償されない部分もカバーできます。
業務中に負ったケガや病気に際して、政府労災の認定を待たずに保険金を受け取ることも可能です。
労災上乗せ保険を考えるならビジネスマスター・プラスを
ビジネスマスター・プラスでは傷害の補償を付帯することで労災上乗せ保険としてもご利用いただけます。業務中に負ったケガに際して、政府労災の認定を待たずに保険金を受け取ることも可能です。
また、ビジネスマスター・プラスは労災の上乗せ補償だけではなく事業の幅広いリスクをカバーできる保険です。事業に合わせて「賠償責任の補償」、「工事の目的物の補償」、「売掛金の補償」、「設備・商品等の補償」、「休業時の利益や費用の補償」など、自社のリスクに備えた補償を選べることも強みの一つです。
事業を運営するうえでは、さまざまなトラブルが想定されます。そのリスクに備え、ビジネスマスター・プラスの導入を、ぜひご検討ください。