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無理して働く「プレゼンティーズム」を防ぐ、
人的資本投資としての休業支援

組織の要としてプロジェクトを牽引してきた社員が、突然、病気や家族の介護に直面したら──。
中核となる人材が休業で長期離脱することになれば、企業にとっては大きな痛手でしょう。しかし実態は、休業せずに不調を抱えながら働き続ける「プレゼンティーズム」のほうが深刻な問題となっています。プレゼンティーズムが、休業よりはるかに大きな損失をもたらすという事実をご存じでしょうか?
なぜ彼らは無理をして働き続けるのか? その構造的な課題を解き明かしながら、「人的資本を守る」投資としての「休業支援」の重要性について考えます。
「休む人」より深刻な「休めない人」の経営リスク
病気やメンタルの不調、家族の介護…。企業の中核をなす働き盛り世代が、こうした問題に直面するケースは珍しいことではありません。心身の負担に応じた適切な休養をとることが不可欠であり、企業としても状況に応じて休業を推奨していることでしょう。
しかし、現実には「休みたいのに休めない」事情から、不調を抱えたまま働き続けてしまうケースがみられます。そのような場合、本来のパフォーマンスを発揮することができず、属人性の高い業務ではプロジェクトの遅延や品質低下に直結します。不調の回復も遅れやすくなり、結果として不本意な離職に至れば、他のメンバーの負荷も増大していきます。
こうした「不調を抱えたまま働き、生産性が落ちている状態」をプレゼンティーズムといい、企業にとって大きな損失となっています。健康問題が企業にもたらす損失・コストの、実に77.9%がプレゼンティーズムによるものとする調査があります※。
休業や欠勤のように表面化することなく、見えない損失を生み続けるプレゼンティーズムは、単なる健康問題ではなく、人的資本を毀損させる経営リスクといえます。
健康関連総コスト
※出典:厚生労働省保険局『データヘルス・健康経営を推進するためのコラボヘルスガイドライン』(2017.07)
https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001467408.pdf
なぜ「休めない」のか? 既存制度に潜む「所得の空白」
ではなぜ、社員は不調を抱えていながら無理をして働き続けてしまうのでしょう。
その背景には、責任感や職場への遠慮だけでなく「収入への不安」があります。療養が短期間であれば、会社制度としての有給休暇や傷病休暇でカバーできるかもしれません。問題は休業が長期化したときです。
長期休業のセーフティネットとして代表的な制度の1つに、公的保障の「傷病手当金」があります。しかし傷病手当金は、支給期間に1年6か月という上限があるだけでなく、標準報酬月額を基準として約3分の2の支給にとどまります。家計にもさまざまな事情があるなか、もし休業が長引き収入が途絶えてしまったら…。そうした不安が頭をよぎり、体調が万全でなくても働き続けてしまうのは無理のないことかもしれません。
そして、復職後の収入も心配事の1つです。職場に復帰しても、すぐにフルタイムで勤務できるとは限らず、短時間勤務や業務量の調整などにより収入が減る可能性があります。この復職後の収入減も、傷病手当金では保障されない「所得の空白」といえます。
休業時の収入変化
「攻め:ベア」と「守り:休業支援」の両輪で
揺るぎないリテンションの確立へ
このようにプレゼンティーズム発生の背景には、長期休業時の収入への不安があります。この不安を緩和するために、休業支援制度の再構築は企業にとって重要課題の1つといえます。
リテンション(人材の定着)向上施策として、いわゆるベア(ベースアップ)を実施する企業は多くあります。給与水準の向上は、従業員の安心感やモチベーションを高め、エンゲージメントの向上にも寄与する有効な施策といえます。
しかし、ベアにより支えることができるのは、あくまで「働けるとき」の生活です。ベアだけで「働けないとき」の収入不安まで解消することはできません。もう1つの支えとして、「休業支援」という万一のときのセーフティネットが必要となります。
働くことの充足感を高める「攻め」のベアと、万一のときの安心感をもたらす「守り」の休業支援。この両輪が備わることで、真のリテンション向上を目指すことができるのです。
リテンション向上への「攻め」と「守り」の両輪
「福利厚生」から「人的資本への投資」へ。
休業支援を再定義する
1日も早い実現が望まれる休業支援制度の拡充ですが、その道は平坦ではありません。
固定費の増大につながる施策について、社内の理解を得る必要があるからです。仮に、企業が自社で休業補償を行う場合、かなり大きな原資が必要となります。保険などの外部のソリューションを活用することで負担を抑えることができますが、固定費が生じることには変わりません。
そこでカギとなるのが、休業支援を「福利厚生」ではなく「人的資本への投資」として再定義する考え方です。
意思決定の場において、単に“社員にやさしい”福利厚生は、コストの大小で判断されやすくなります。しかし、人的資本への投資と位置づけると、判断軸は「その投資がどんなリターンをもたらすのか」という観点に変わります。
そこで休業支援は「プレゼンティーズムによる生産性低下」や「不本意な離職による人材の喪失」、「再採用・育成コスト」などの損失を防ぐ「人的資本の保全投資」として説明することができます。この休業支援におけるリターン(=回避される損失)と、かかるコストを天秤に掛けることで、経営上の合理性をもつ施策であるか否かが、より客観的に評価しやすくなるでしょう。
休業支援のコストとリターン
「働いているときも、働けないときも、人を守り抜く」。
休業支援は、組織の求心力を高める経営メッセージ
このように休業支援制度は、投資対効果を見据えながら構築することができれば、プレゼンティーズム損失抑止につながる経営の武器となります。しかし、休業支援の価値はそれだけにとどまりません。
病気などの想定外のアクシデントは誰にでも起こりうることです。今は何の問題もなく働いている社員も「いつか働けなくなったとき、自分は会社にどう扱われるのだろうか」という不安は感じているかもしれません。
そうしたすべての社員に対し、休業支援制度を拡充することで「この会社は、働いている時も、働けない時も、社員を守り抜く」というスタンスを明確に示すことができます。社員は将来に渡る安心感を持って働くことができ、エンゲージメントの向上やリテンションの強化につながることが期待できます。
休業支援は、「人的資本の保全投資」であると同時に、「この会社は人を守る」という信頼を生み出す経営メッセージでもあるのです。
休業支援は、単なる福利厚生ではなく、人的資本経営を支える経営施策です。収入不安によるプレゼンティーズムや不本意な離職を抑え、人材リテンションを支える基盤となります。
では財務面の課題もクリアしつつ、持続可能なセーフティネットとして実現するにはどうすればよいのでしょう。リスクファイナンスの手法を用いた具体的な解決アプローチを解説するこちら
の記事をご覧ください。
- (注1)2026年8月4日時点の情報をもとに作成しております。





























