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サプライチェーン寸断の危機。事業継続に必要なリスク管理とは

近年、気候変動による災害の激甚化や不安定な世界情勢など、企業はかつてないほど多様で予測困難なリスクに晒されています。一つのインシデントが、事業継続を揺るがす引き金になる可能性もあります。
日本国内外に点在する拠点やサプライヤーなど、複雑に絡み合うサプライチェーンの管理を各現場担当者の経験則だけに頼っている状況では、有事の際に事業を守り抜けないことも考えられます。
国内の台風から国外の人権問題まで。予測不能なリスクが事業の根幹を揺るがす
近年頻発する突発的な自然災害や不安定な国際情勢は、サプライチェーンの寸断や市場の混乱などを引き起こし、企業の事業継続を脅かす可能性があります。例えば次のようなリスクが考えられます。
激甚化する自然災害により国内拠点が常に抱える「物理的リスク」
台風や豪雨、地震などの自然災害は、従業員やサプライヤーへの直接的な被害だけでなく、物流網の遮断などを引き起こす可能性が考えられます。こういった状況下において、企業には多数の至急かつ臨機応変な対応が求められます。
例えば大規模地震が発生した際、小売業の店舗管理部門では、次のような対応が発生します。
- 震度が大きく、被害が懸念される地域にある営業店舗のリストアップ
- 従業員の安否や営業店舗の被害状況確認
- 避難指示発令などの有無、内容確認
- 営業方針(BCP)実行
- 営業不可の場合:従業員の自宅待機、店舗の一時休業指示、仕入れ停止
- 営業可能な場合:従業員の出勤、店舗営業、消費期限の長い食品や生活用品を中心とした仕入れ指示
自然災害はいつ、どのような規模で発生するか予測がつきません。緊急時のため十分な体制が取れないまま判断を迫られることも考えられます。
国内拠点のすべてが常にこうした物理的リスクを抱えているといっても過言ではありません。
部品供給停止により約半数の企業が営業利益減少を経験した「財務リスク」
予測不能なリスクはサプライチェーンの寸断や停滞を招き、納入の遅延や生産コストの増加にも直結します。
調達途絶危機により発生した損失影響
アビームコンサルティング 日系組立製造業における調達・サプライチェーンリスク対応の実態調査をもとに当社作成
出典:https://www.abeam.com/jp/ja/insights/007/
アビームコンサルティング「日系組立製造業における調達・サプライチェーンリスク対応の実態調査」によると、組立製造業企業の回答として「調達途絶により発生した損失影響としては、営業利益計画に対して5%以上の損失影響を受けた企業が約半数を占め、20%以上の損失影響を受けたと回答した企業も約2割存在した」※という結果が出ています。
部品供給停止により生産活動が停止すると、出荷減少や遅延による顧客離れなどを引き起こし、最終的には経営そのものを揺るがす深刻な財務リスクへとつながる可能性も考えられます。
※出典:アビームコンサルティング『日系組立製造業における調達・サプライチェーンリスク対応の実態調査』(2024.08.08)
https://www.abeam.com/jp/ja/insights/007/
Tier2、Tier3以降にも潜む「レピュテーション(評判)リスク」や「ESG(環境、社会、ガバナンス)リスク」
SNSの普及により情報拡散のスピードや範囲が加速度的に高まっている昨今、企業にとって「レピュテーション(評判)リスク」や「ESG(環境、社会、ガバナンス)リスク」も決して無視できない要素です。
コンプライアンス違反などの自社の不祥事はもちろん、サプライチェーンのTier2、Tier3以降といった目の届きにくい先で起きた人権・環境問題なども事業に大きな影響を及ぼす可能性があります。特に欧米企業では人権問題への対応を急速に進めており、「認識できていなかった」では済まされない状況となっています。
なぜ対策が後手に回るのか?属人化・情報分断という「見えない壁」
「現場任せ」「勘」の判断。拠点・部門ごとの属人的な対応
このように「関連先を隅々まで把握したうえでリスク対策を採る」ことが求められる中で、なぜ実際のリスク対策は後手に回ってしまうのでしょうか。そこには「現場に判断を委ねる」「担当者の勘に頼る」といった属人的な対応にならざるをえない体制が大きく影を落としています。
例えば建設業は、集中豪雨や大型台風、猛暑による従業員の熱中症など、近年の気候変動に伴うリスクをいくつも抱える業種です。しかし休工の判断などは現場に委ねられることが多く、さらに現場の責任として工期が優先されるなど、リスク対策が二の次になっている場合があります。
また小売業では、店舗やサプライヤーの被災状況を効率的に一元管理する環境が本社になく、営業判断は各店舗の店長に委ねられて統一感に欠け、需給計画も勘に頼り……という状況が珍しくありません。
非常時でも生活必需品を販売するエッセンシャルワークの事業者として期待されながら、勘に頼った需給計画でニーズに応えられないことは評判の低下にもつながりかねません。
サプライチェーンのブラックボックス化と担当者のリソース不足
製品の高度化・複雑化による部品点数の増加や、海外調達の比率増加による調達先の多様化、ジャストインタイム方式の採用による在庫最小化などの要因が重なり、サプライチェーンのブラックボックス化が進んでいます。
サプライチェーンのブラックボックス化の要因
サプライチェーンは4~5階層まで深化する傾向にありますが、その可視化は十分に進んでいません。KPMGコンサルティングの調査レポート「これからのサプライチェーンに関する調査2023」によると、「Tier2サプライヤーまで明確に可視化できている企業は28%にすぎず、43%の企業はTier1サプライヤーに関してさえ可視化されていないまたは「非常に不透明」だと回答しました」※となっています。多くの企業でサプライヤーの実態把握が困難になっている状況がうかがえます。
サプライチェーンの可視化が進まない背景には、現場担当者のリソース不足や、リスク対応のための予算が確保できない、全社で統一されたリスク評価基準がないため優先順位付けが難しい、といった課題が存在すると考えられます。
※出典:KPMGコンサルティング『これからのサプライチェーンに関する調査2023』(2024.07.23)
https://kpmg.com/jp/ja/home/insights/2024/07/future-of-supplychain.html
ストライキや紛争など、人海戦術では監視しきれないグローバルリスク
不安定な国際情勢によって起こるグローバルリスクは、担当者によるモニタリングや情勢判断だけでは追いつかない面もあります。
例えば、国内外に複数の生産拠点を持つとある自動車部品メーカーでは、海外の港湾でのストライキによって国際輸送がストップした際、担当者による情報のキャッチが遅れたうえに「自社への影響はない」と判断を誤ったことから、後々になって大きな生産遅延を招きました。
自社に影響を及ぼす客観的な情報を早期に入手するには、グローバルかつ網羅的に情報を把握することが必要になります。
情報の集約・報告に時間がかかり、初動が遅れる悪循環
正確な情報をできるだけ多く集めなければと考えるあまり、情報収集に時間を取られて初動が遅れてしまうというのも、リスク対策としては悪手です。
例えば、とある小売業の大手チェーンでは、災害発生時にどの拠点が今回の災害の影響を受け、BCP(事業継続計画)の実行対象となるのかを特定する作業だけで多くの時間を要しており、初動の遅さが問題視されていました。
初動の遅れは現場の混乱や被害の拡大、復旧活動の停滞を引き起こすだけでなく、結果として企業イメージの低下などを招く可能性もあります。
求められる積極的なリスクマネジメントへの転換
「経験則」から「客観的データ」に基づく意思決定へ。全社統一基準の必要性
属人的な対応やサプライチェーンのブラックボックス化などのリスク対策の大きな課題として「意思決定に統一性がない」ことが挙げられます。この課題を解決するには、次のような対応が求められます。
- 経験に基づく属人的な判断への依存を止める
- 国内外の拠点・サプライヤーのリスクを一元管理する
- 客観的データに基づいた迅速な判断を行う
- 全社統一の判断基準を作り、効率的なリスクマネジメントを行う
「部門最適」から「全体最適」へ。点在するリスクを一元管理する仕組みの構築
リスクを一元管理する仕組みの構築によって、現場で判断するという部門最適の状態から、より広い視野でリスクを回避できる「全体最適」へシフトできます。
例えば、リスク分析・可視化が可能なSCM(サプライチェーンマネジメント)システムなどでサプライヤーを一元管理しておけば、あらかじめサプライヤーにどのようなリスクがあるかを確認できます。災害発生時にはリスクの高いサプライヤーをピックアップし、先んじて代替調達を検討することも可能になります。
こうして生産活動を維持することで、リスクによる影響を最小限に抑えることができます。
「事後対応」から「事前対策」へ。気象災害リスク予測に基づくプロアクティブな減災行動
リスクの一元管理に加え、マップとアラートによる災害のリスク予測と拠点情報を組み合わせた仕組みにより、「どのようなリスクがあるかを効率的に確認」することが可能になり、よりスピーディにリスク対策へ取り組めます。
従来「事後対応」が主であったリスクとの向き合い方を、プロアクティブな「減災行動」へとシフトできます。
事業継続を確実にするための次の一手
BCP(事業継続計画)と連携した訓練の重要性
「BCP(事業継続計画)を策定してあれば万一の場合も心配ない」とつい考えてしまうものですが、通常業務と違う動きを取るとなれば、それだけでハードルは上がります。
そこで重要になるのが、BCPの内容を踏まえた「訓練」です。避難訓練はもちろん、店舗の開閉判断、物流の出荷タイミングの調整、スタッフのシフト調整などといった事業継続上の判断も、訓練経験のあるなしで、いざという時の心構えも異なります。
日ごろから、災害の影響が懸念されるさまざまな状況をシミュレーションし、訓練しておきたいところです。
サプライヤーへの改善要求など、ステークホルダーを巻き込んだ連携体制の構築
サプライヤーの状況を把握できていても、こちらの判断を受け入れてもらう関係性が構築できていなければ、現場に判断が委ねられる状況は変えられません。
自社の都合だけではなく「サプライチェーン全体のリスクを軽減する目的がある」とあらかじめ伝えておき、緊急判断の根拠となるデータを適宜共有する、高リスクの場合は改善を求めるなど、日ごろから連携体制を築いておくことが重要です。
万が一の財務的損失に備える新たな保険戦略の検討
ここまで説明してきたように、情報の正確かつ迅速な把握が、減災と復旧の早期化につながります。
しかし、いかにリスク対策を重ねていても、すべてのリスクを回避することは難しいものなので、深刻な財務的損失が生じた場合に備えた保険戦略も検討しておかなければなりません。
また、自社施設だけでなく、サプライヤーの罹災による自社の収益減少のカバーも対象となる損害保険についても検討する必要があります。
- (注1)2025年10月2日時点の情報をもとに作成しております。
- (注2)このご案内は概要を説明したものです。詳細につきましては、取扱代理店または損保ジャパンまでお問い合わせください。





























