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  • リスク・課題

見えない生産性低下が企業を蝕む。中核人材を守る「介護両立支援」という戦略的アジェンダ

見えない生産性低下が企業を蝕む。中核人材を守る「介護両立支援」という戦略的アジェンダ

2030年、従業員の介護を理由とした労働生産性の低下と離職などにより日本企業が直面する経済損失は、約9兆円──。

経済産業省が示したこの推計の内訳を見ると、そのうち7.9兆円は「仕事と介護の両立困難による労働生産性の低下」によるものです。
例えば、従業員3,000名規模の製造業では年間約6.2億円の損失が発生する可能性があり、これは事業利益率5%で換算すると100億円以上の売上に匹敵する規模です。つまり、離職を防ぐだけでは不十分であり、働きながら介護をする従業員が本来のパフォーマンスを発揮できる環境整備が必要です。介護はもはや個人の問題ではなく、企業の持続的成長を脅かす重大な経営リスクとなっています。

人的資本経営が非財務情報として投資家をはじめとする外部ステークホルダーからも注目されています。特に、2025年4月の改正育児・介護休業法施行にともない、企業にとっては介護両立支援体制の構築が不可欠となっています。改正育児・介護休業法では、従業員一人ひとりへの両立支援制度の周知と利用意向確認が義務化され、研修実施や相談窓口設置といった雇用環境整備措置の実効性が求められています。この課題への対応は、単なるコンプライアンスの枠を超え、企業価値そのものを左右する戦略的アジェンダなのではないでしょうか。

ビジネスケアラーの生産性低下という潜在リスク。中核人材の消耗が招く事業継続性の危機

ビジネスケアラーの生産性低下という潜在リスク。中核人材の消耗が招く事業継続性の危機

生産年齢人口の減少が加速する中、2030年には約318万人がビジネスケアラー(仕事をしながら家族等の介護に従事する者)となる見込みです。これは従業員の約20人に1人が介護と仕事の両立に直面することを意味します。経済産業省「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」によれば、この両立により約27.5%の生産性低下が生じると試算されています。

特に注視すべきは、ビジネスケアラーの多くを、組織の中核人材である40〜50代の中間管理職層が占めているという事実です。組織の要として重要なプロジェクトを統括し、若手人材の育成を担う中間管理職層が、介護負担により本来の生産性を発揮できない状況は、事業継続性にも影響します。

しかしながら、介護はプライベートな問題として捉えられがちなので、従業員の自発的な申告は限定的です。自身のキャリアへの影響を懸念し、介護の状況を開示することに抵抗を感じる従業員も少なくありません。加えて、介護は育児と異なり、明示的な始まりがなく緩やかに発生する傾向にあります。

この「見えにくさ」こそが、経営リスクとしての認識を困難にしている最大の要因です。従業員のパフォーマンス低下や、突然の休職といった形で介護の問題が顕在化し、初めて事態の深刻さが明らかになることもありますが、それ以前から、日々の業務において徐々に生産性の低下が進行しています。
そこから事後対応を講じたとしても、組織の知識やスキルの喪失、業務の停滞、採用・育成コストの増大といった多面的な損失を防ぐことは困難です。

潜在化する介護問題と可視化の必要性

潜在化する介護問題と可視化の必要性

人事部門の限界。内製化を阻む「高度な専門性」と「法適合の複雑性」

介護による生産性の低下という経営リスクに実効性ある対応を講じるには、実態把握から制度設計、専門的な相談対応に至るまで、体系的かつ多層的なアプローチが必要です。しかし、企業単独での施策展開には、以下に示す本質的な障壁が存在します。

人事部門のキャパシティを超える「個別ケース」の難易度

介護両立支援における最大の課題は、その専門性の高さと個別性の複雑さにあります。介護保険制度の理解、地域包括支援センターとの連携、ケアマネジャーとの協働など、介護支援には高度な専門知識とケースワークの技能が必須となります。これらは人事労務とは異なる領域の技能であり、限られた人事リソースで専門性を内製化することは現実的に困難です。

育児支援と比較すると、介護の個別性の高さは顕著です。要介護度、同居の有無、地域の介護資源の充実度、要介護者の病状や性格、家族構成──こうした多様な要因が複雑に絡み合い、一つとして同じケースは存在しません。要介護度は緩やかに重度化すると思われがちですが、実際には急激に悪化するケースも多く、将来予測が極めて困難です。10年以上にわたって両立が必要となる場合もあり、長期的視点で支援体制の構築が求められます。

こうした状況下では、人事部門が従業員から介護相談を受けても、両立支援制度の案内には限界があります。結果として、個別性の高い介護問題への対応が人事部門の大きな負担となり、従業員への実質的支援は不十分なものとならざるを得ないのが実情です。

コンプライアンス遵守と管理コスト最適化のジレンマ

2025年4月に施行された改正育児・介護休業法により、介護に直面する従業員一人ひとりに対して両立支援制度を周知し、その利用意向を確認する義務が課せられました。この法改正は、単なる制度の導入にとどまらず、雇用環境整備措置──具体的には研修の実施や相談窓口の設置──に実効性を持たせることが求められます。法令の解釈から実務への落とし込み、運用設計に至るまで、相当な工数と専門知識が必要となります。

加えて、健康経営度調査票における「介護と就業の両立支援」に関する項目への対応も、企業の人事部門に新たな負荷をもたらします。実態把握、従業員への情報提供、相談窓口の設置といった複数のステップを踏む必要があり、それぞれに適したサービスを個別に選定し比較検討する作業は、多くの時間を要します。

さらに、実態調査や相談窓口などの各種サービスを提供する複数のベンダーを個別に導入した場合、管理工数の増大とともにトータルコストが増加するリスクも無視できません。各サービス間の連携不足により、従業員への支援が断片的なものとなり、包括的なサポート体制の構築が困難になることも懸念されます。

介護両立支援における企業の構造的課題

介護両立支援における企業の構造的課題

企業に求められる体系的アプローチと経済補償制度の整備

介護支援の専門性と個別性の高さ、法改正対応の複雑さを鑑みれば、企業が単独で支援体制を内製化することは、現実的な選択肢とは言い難いものがあります。では、企業はどのように対応すべきなのでしょうか。経済産業省「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」では、企業が取り組むべき事項を段階的なステップとして示しています。

経営層のコミットメントから始まる3ステップ

ガイドラインが示す支援体制構築のプロセスは、大きく3つのステップで構成されています。

企業における介護両立支援の3ステップ

企業における介護両立支援の3ステップ

STEP1:経営層のコミットメント
仕事と介護の両立支援において、全社的に取り組む姿勢を示すことが出発点となります。経営者自身が介護による生産性低下の可能性を認識し、従業員へメッセージを発信することで、組織全体の意識改革が始まります。同時に、担当役員や推進担当者を指名し、管理職層を巻き込んだ体制を整備することが求められます。

STEP2:実態の把握と対応
組織内での仕事と介護の両立における影響やリスクを把握します。アンケート調査による実態把握、人材戦略の具体化、適切な指標の設定など、課題を可視化し対応方針を定めることが求められます。

STEP3:情報発信
企業がプッシュ型の情報発信を行うことで、従業員個人の将来的なリスクを低減します。基礎情報の提供、研修の実施、相談先の明示など、従業員が必要な情報にアクセスできる環境を整備することが重要です。

企業独自の取組の充実
加えて、企業独自の取組として、人事労務制度の充実や個別相談体制の整備、介護経験者同士が交流できるコミュニティ形成、効果検証の仕組み構築なども進めます。

また、顧客・投資家等のステークホルダーへの発信と対話を行うとともに、地域と連携した両立支援体制を構築することで、持続可能な支援体制の実現が可能となります。

「実務支援」と「経済補償」の両輪でサポート

一方で、精神的・実務的支援だけでは、介護による生産性の低下を防ぐことは困難です。介護休業中や短時間勤務時の所得減少は、従業員にとっては大きな不安要因となります。
雇用保険の介護休業給付は、休業開始時賃金の67%を通算93日まで支給する制度ですが、これには明確な限界があります。93日を超える休業期間の所得減少には対応しておらず、短時間勤務による所得減少もカバーされません。

この課題に対する解決策として、GLTD(団体長期障害所得補償保険)に介護休業に関する特約を付帯する手法があります。この保険商品は、介護休業給付への上乗せ補償を可能とし、93日を超える休業期間の収入もカバーします。さらに、短時間勤務により所得喪失が生じている場合にも補償対象となり、従業員の経済的安心感を確保できます。

また、個人で加入する介護保険とは異なり、GLTDは企業が契約者となる団体保険であり、介護対応の特約を持つ保険商品を選定する必要があります。複数の保険会社が提供しているため、内容や条件を精査した上での判断が求められます。

企業価値と従業員を守り抜くために、経営者が決断すべき「持続可能な組織」への投資

企業価値と従業員を守り抜くために、経営者が決断すべき「持続可能な組織」への投資

介護による生産性低下という経営リスクに対応するには、支援サービスと収入補償の双方を組み合わせることが不可欠です。その際に重要となるのが、介護の専門知識を有する事業者を選定することです。理想的には、リスクマネジメント、保険、介護サービスを一体的に提供できる事業者が望ましいと言えます。

なお、国内トップクラスの介護事業を展開するSOMPOグループは、実際の介護現場で培った知見を企業支援に活かせる事業者です。自社内での両立支援の取り組みが経済産業省のガイドラインに好事例として掲載されるなど、その実績に基づく専門性と実効性は高く評価されています。

従業員の介護による生産性低下は、2030年に向けて加速する超高齢社会において避けて通れない経営課題です。企業には、従業員の人生とキャリアを支える社会的責任と、事業継続性を担保する経営的要請の双方が課せられています。
こうした背景のもと、働きながら介護をする従業員が安心して本来のパフォーマンスを発揮できる環境整備の重要性が高まっています。
外部の専門的支援を戦略的に活用し、両立支援体制を構築することが有効な選択肢となります。

※ 出典:経済産業省『仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン』(2024.03.26)
https://www.meti.go.jp/press/2023/03/20240326003/20240326003.html

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